女性初の自民党総裁に就いた高市早苗氏(時事通信フォト)
「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いて参ります」──女性初の自民党総裁に就いた高市早苗氏は、勝利後の会見で力強くこう語った。「女性の活躍」が声高に叫ばれる中、第一党の総裁となった高市氏はついに「ガラスの天井」を破り、日本初の女性リーダーになるか注目されている。しかし、その道はいまだ前途多難だ。彼女が40年をかけて突破したガラスの天井は「二枚天井」なのかもしれない。【全4回の第1回】
「うれしいというよりも、本当にこれからが大変なことだ。みなさまと一緒に、力を合わせてやらなきゃいけないことが山ほどある」──悲壮感すら漂う緊迫した表情で語ったとき、彼女に去来していたのは喜びか、覚悟か。10月4日の自民党総裁選で、結党70周年を迎える自民党に初めての女性総裁が誕生した。
三度目の挑戦となる高市早苗・前経済安全保障担当相(64才)の前に立ちはだかったのは、“政界のサラブレッド”“プリンス”とも称される小泉進次郎・農林水産相ら、4人の男性議員たち。世論やマスコミが「小泉氏優勢」を伝える中で、高市氏が華麗なる大逆転を果たし、「三度目の正直」となったのだ。
「高市さんに自民党を変えてほしい」全国の党員の思いに重鎮が「乗った」
決選投票前の両者の演説が大きな分岐点だったと振り返るのは、政治評論家の有馬晴海さんだ。
「進次郎さんが『みんなで一致団結して頑張ろうと思います』と“挨拶”したのに対し、高市さんは『日本のいまと未来のために自民党が変わらなければならない。この強い危機感からでございます』『日本列島を強く豊かに、そして次の世代に引き継いで参りましょう』と強い“決意”をドスの利いた声で語った。あの演説で高市さんを新たなリーダーとして認めた議員が多く、進次郎さんに流れたはずの票が彼女に向かったのでしょう。最後に高市さんの迫力が進次郎さんを上回ったといえます」
総裁選は295人の国会議員票と都道府県ごとの党員投票で決まる。当初、小泉氏は議員票で圧倒的にリードしているとされたが、元衆議院議員の宮崎謙介さんはそこに慢心があったとみる。
「多数の議員票を後ろ盾にした小泉陣営は、“勝ち馬に乗らなくていいのか”と中立的な議員を口説きましたが、自分たちは勝って当然といわんばかりの姿勢が反感を買い、逆に支持を減らしたといえます。
結果を見るとそれは明らかで、進次郎さんの最初の決起集会には92人の国会議員が参加しましたが、実際に投票した議員は80人ほどにとどまりました」
ひっくり返った要因は陣営内での「ステマ問題」や、地元・神奈川の党員票を巡る問題といった小泉陣営のオウンゴールにとどまらない。すでに報道されているとおり、その背景には麻生太郎元首相の采配があった。
「最後の最後に麻生さんが高市さん支持を麻生派議員に呼びかけ、その票が上積みになって結果がひっくり返りました。そもそも麻生さんは麻生派にいた河野太郎氏が総裁選に出たいと言ったとき、“お前はまだ早い”と出馬を許さなかった。進次郎さんにもまだ年齢的に早いとか、人間的に成熟してから出た方がよいとの思いがあったはずです。実際、麻生さんは進次郎さんに『お前、その若さでよく総裁選に出るな。おれなら出ねえよ』と伝えたと聞きます」(有馬さん)