女霊に一晩中迫られて精気を吸い取られる

 同じく八雲の『因果ばなし』では、よりおどろおどろしくも官能的な描写が見て取れる。

 病に侵され死期が近い、ある大名の正室がいた。正室は若く美しい側室・ゆきこに、「最後に庭に咲いている桜が見たい。おぶっておくれ」と願う。しかし、ゆきこが正室をおぶって桜の木の下に連れて行くと正室の様子が一変する。

 鬼の形相となった正室は奇声を発しながらゆきこの着物を脱がし、強力な握力でゆきこの乳房を揉み掴み、嬉しそうに笑いながら絶命する。

 死にゆく正室の無上の喜びを八雲はこう描く。

《「望みは叶った」彼女は叫んだ――「桜の花への望みは叶った――だけど庭の桜の花じゃあない……望みを叶えるまでは死にきれなかった。今それは叶った――おお、嬉しや嬉しや。」》(千歳出版『決定版 小泉八雲全集』)

 ゆきこが驚いて叫び、駆け付けた腰元や大名が正室の手を引きはがそうとするも握る力が強く離れず、やむなく正室の腕を手首から切断する。しかし、それでもゆきこの乳房を掴む指はいつまでも離れなかった。

 この物語は「女の執念」を表わすと東氏が語る。

「正室が、死んでも側室にその座を渡したくなく、自分が死ぬなら側室も道連れにしてやるという怨念が描かれています。その後、胸から離れない手を抱えたゆきこは尼僧になり、正室の成仏を祈りますが、乳房を掴む手は生涯離れなかった。八雲が描いた作品の中でも特にうらめしい物語です」

 この正室のように、怪談ではあの世に行った女の「恨み」がこの世に残ることが多いという。

 八雲が翻訳した『牡丹灯籠』は、江戸時代に三遊亭圓朝が創作した古典落語だ。

 美男の若侍・萩原新三郎が旗本の娘・お露に一目ぼれする。しかしお露は新三郎が知らない間に病死し、その死を嘆いた女中のお米は自殺する。幽霊になったお露とお米は牡丹柄の灯籠を持ち、カランコロンと下駄の音を鳴らしながら新三郎に会いに行く。

 その後、新三郎は幽霊を防ぐお札を家中に貼るも、お露に買収された家来が札を剥がしてしまう。すると翌朝、新三郎が苦悶の表情で息絶えており、その上にお露とされる骸骨が散らばっていた。

 新三郎は、色欲にまみれた情事の末に絶命したと吉田氏は指摘する。

「新三郎は幽霊となったお露に一晩中、性交を迫られて精気を吸い取られ、“やり殺された”とみられます。江戸期には、色欲に取り憑かれた女性が霊となり、男性に死ぬまで性交を求める話がいくつもあります」

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