監督業にも初挑戦した中村雅俊(撮影/塩原 洋)
俳優デビューから50年を超えた中村雅俊は、『俺たちの旅』『俺たちの勲章』など主演34本を数える。そんな中村に作家の松田美智子氏が、脇役が増えたことで見えること、初挑戦した監督業などについて聞いた。【前後編の後編。前編から読む】
「歳を取ると敵が増える」
『俺たちの旅』のあとは『俺たちの祭』『青春ド真中!』『ゆうひが丘の総理大臣』などの番組で主演し、彼の快進撃が続く。
「時流の波に乗るのはラッキーだけど、波に乗り続けることのほうが遥かに大変なんです。だから、かけもちはせず、一つ一つの仕事を大切にしようと決めました」
さらには現代劇だけでなく、大河ドラマの『花神』『おんな太閤記』『春日局』など、時代劇の出演も増えた。
森田芳光監督の『武士の家計簿』では加賀藩の御算用方と呼ばれる武士を演じた。妻役は松坂慶子で、二人のどこか惚けたやりとりが絶妙である。
「松坂さんとは何度か共演していて、あの人と演ると、何か安心するというか、陽の当たる場所に行くような、居心地の良さを感じますね」
『武士の家計簿』の主役は堺雅人。長台詞をなんなくこなすことでも知られる演技派の俳優だ。
「この世界で長くやっていると、才能がある人にいっぱい出会うので、俺も頑張らなくちゃと思いますね。主役でデビューして、ずっと主役をやってきたけど、脇に回ることが増えたし、段々に追いやられてきますよね」
意外なことに、彼は「自分は芝居のセンスはあまりない」と話す。
「役所(広司)さんみたいに、いつも素晴らしい演技とはいかないけど、俺もちょっと頑張って『おっ、今回はなんか違う。凄いな!』と言われることが、たまにはあってもいいかなと(笑)」
これまでに彼がテレビの連続ドラマで主役を務めたのは34本。さらに驚くのは、コンサート活動が1600回を超えたという記録である。
歌手になったとき、彼は3つの目標を持った。紅白歌合戦への出場、武道館でのコンサート、最後がフルオーケストラで歌うことだった。
「あるとき60人編成のオーケストラで歌う仕事があったんです。オーケストラをバックにして歌うと物凄く気持ちが良くて、これが理想なんじゃないかと思ったんです」
3つの夢をすべて叶えたうえ、レコーディングは300曲を超えているが、ベテランの域に達しても油断はできない。
「歳を取れば、声が出なくなるとか、敵が増えてきて、それと戦わなくてはいけなくなる」
一方で彼は、再びチャレンジしてみたい夢を語る。海外の映画出演だ。
「『アメリカンパスタイム 俺たちの星条旗』に出演したときは、マネージャーなし、通訳なしで、ずっと一人でした。向こうでは誰も俺のことを知らないから、のびのびと演れたのも良かった」
これからも機会があれば英語を勉強し、緊張と刺激を味わいたいという。
