問題を追い続けてきたジャーナリスト・作家の鈴木エイト氏
母と妹の証言が終わると、いよいよ山上の被告人質問が始まった。母親については「相変わらずだなと思いました」「非常にマイペースと言いますか」と呆れる様子を見せつつ「非常につらい立場に立たせてしまったと思います」と愛憎入り交じる思いを見せた。妹には「非常につらい思いをさせたと思う」と気遣う発言が目立った。
山上の供述は総じて、減刑のために意図と異なる回答をすることもなく、言葉を選びながら冷静に、自分を客観的に捉えて話す姿が印象的だった。
経済的な困窮のなかで生きていた山上。統一教会に明確に恨みを持ったのは、2015年の兄の自殺に対する母親の認識だった。
「母親にとって、兄は死後の世界で幸せに暮らしているということになっていて。兄が生前苦しんでいたのは、一旦神にささげた献金の返金をさせるようなことをしたから、という理解になっていた」
一方当時の安倍首相に対しては、韓国への厳しい対応などを理由に政治的に支持していたという。統一教会の本部は韓国にあるからだ。安倍氏と統一教会のつながりに関する情報があれば見るようにはしていたが、「目を向けず深く考えないようにしていた」という。
引き金を引くことが人生の目的
2021年に安倍氏が統一教会の友好団体に送ったビデオメッセージ動画を見て翌年7月に殺害するまでの感情の変化を問われた山上は、こう説明した。
「統一教会との関わりを前面に出したことで、考えたくないというわけにはいかなくなった」「裏切られたというよりは、諦めに近い」
ビデオを見て「絶望と危機感」を感じた山上は、「統一教会に一矢報いるというか、打撃を与えるのが自分の人生の意味」と確信したという。
教団幹部を襲撃するために、手製のパイプ銃の製造を始めていた山上。そこから凶行に至るわけだが、山上はその時、銃の引き金を引くこと自体を人生の目的としたという。引き金を引く結果を、現実として捉えることを躊躇したのかもしれない。
