左から安倍晋三・元首相、昭恵夫人(写真/共同通信社)

左から安倍晋三・元首相、昭恵夫人(写真/共同通信社)

 対象を安倍氏に定めた経緯についてはこうした。

「安倍元首相と統一教会との関係が公に続いていくとすれば、公的に認められていくのが受け入れがたい。安倍元首相に対する強い怒りではないが、頭の片隅や心のどこかに引っかかり続けた」

 一方で、複雑な思いも語っている。

「あくまで対象は統一教会。(安倍元首相は)関与している政治家の最も有名な人で、意味はないとは思わないが、本筋ではないと思っていた」

 被告人質問の終盤となった12月3日、遺族の昭恵夫人が出廷し、検察官の後ろの席に座った。

 この日の被告人質問では証言台に座る前、山上は昭恵夫人に向かって頭を下げた。それまでの被告人質問では見られなかったことだ。昭恵夫人も軽く会釈を返した。翌日の被告人質問で、山上は遺族に対して謝罪した。

「昭恵さんをはじめとして安倍元首相のご家族には何の恨みもありませんので、殺害したことで非常にこの3年半つらい思いをしてきたのは間違いないと思います。自分も肉親が突如として亡くなるのは経験しています。そのことに関しては自分に弁解の余地はない。非常に申し訳ないことをしたと思っています」

 山上が、自分の銃撃が安倍氏の命を奪ったという実感を持ったのは、公判2日目に法廷内で上映された動画を見た時だという。安倍氏が被弾して倒れる一連の動画を見て、初めて強烈なリアリティーが感じられたと明かした。

 山上は家族を見捨ててひとりで生きていくこともできたはずだが、家族への想いが教団への復讐心となり、さらに安倍氏に対する複雑な感情が相俟って、狂気と正気の葛藤のうちに、このような悲劇へと至ったと感じた。

 12月18日には論告・求刑のあとで昭恵夫人の意見陳述と山上の最終陳述が行なわれる。

 昭恵夫人は夫の命を奪った山上に対しどのような思いを抱いているのか、そして山上はそれを聴き、何を語るのか。

「山上徹也」という存在を生み出した責任は我々の社会全体にある。この裁判がどう裁かれるべきなのか、その答えの一端が18日の弁論手続きで示されることを願うのみだ。

【プロフィール】
鈴木エイト(すずき・えいと)/ジャーナリスト・作家。日本ペンクラブ理事、日本脱カルト協会理事、「やや日刊カルト新聞」主筆。統一教会問題を中心にカルト宗教問題について追い続けていた。著書に『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』『自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言』(小学館)、『「山上徹也」とは何者だったのか』『NG記者だから見えるもの』(講談社+α新書)、『統一教会との格闘、22年』(角川新書)。

※週刊ポスト2025年12月26日号

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