『言語学者、生成AIを危ぶむ 子どもにとって毒か薬か』(川原繁人・著)
高市発言に端を発する日中の関係悪化、深刻化する少子高齢化、課題山積の移民・難民問題、そして急激に普及する生成AIやSNS上でのフェイクニュース・誹謗中傷問題……。解決すべき数多の問題が山積みになっているこの時代。2026年を迎えて、私たちはいかに対処すべきか。そのヒントとなる1冊を、本誌書評委員が推挙してくれた。
言語学者・作家の川添愛氏が選んだ「2026年の潮流を知るための“この1冊”」は『言語学者、生成AIを危ぶむ 子どもにとって毒か薬か』(川原繁人・著/朝日新書/1045円)だ。
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2025年も生成AIの勢いは止まらなかった。主だったAIの不具合が起こるたびに、SNS上に「今日はもう仕事にならない」との嘆きが溢れかえり、その普及ぶりを実感した。「誰にも相談できないことをAIに相談している」という若者が増えている。教育関係者からは、「生徒がAIに書かせたと思しき文章を提出してきて困っている」という声を頻繁に聞く。
現在、生成AIを搭載した子ども向けのおしゃべりアプリも開発されており、未就学児がAIに触れる機会は今後増えていくと考えられる。しかしAIは、言語の発達期にある子どもに対してどのような影響を与えるのだろうか?
本書は、専門の音声学を中心に言語学の楽しさを発信し続けてきた著者が、二児の親としてその問題に正面から向き合った本だ。言葉を操る生成AIのことをよく知らない人は、本書で基本的な知識を取り入れることができる。
しかしより注目すべきは、生成AIという今日的なテーマに絡めて、子どもが母語を身につけていくために必要な要素が分かりやすく解説されている点だ。テレビやAIの画面から赤ちゃんが言葉を学べるかを論じた章や、著者と心理学者の皆川泰代氏の対談などを読むと、成長期における「他の人間との触れ合い」の重要性を痛感する。
著者は生成AIを子どもに与えることに対し一貫して慎重な立場を取っているが、「ただ闇雲に批判するのではなく、きちんと知ろう」とする誠実さが本全体からにじみ出ている。著者自身が「実験台」となるべく生成AIを試した顛末は、これから生成AIに触れようとしている大人はみな読んでおくべきだろう。
2026年も生成AIがさらに広がることが予想される中、本書を読んで「心の準備」ができている人とそうでない人とでは、かなり違う年になるかもしれない。
※週刊ポスト2026年1月2・9日号
