『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』/西方ちひろ・著
【書評】『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』/西方ちひろ・著/ホーム社発行、集英社発売/1980円
【評者】室橋裕和(ジャーナリスト)
12月28日から、ミャンマーでは総選挙が行われる。57の政党が候補者を立てるが、いずれも2021年にクーデターを起こし強引に政権を奪った軍に従順な党ばかり。政権を追われた「国民民主連盟(NLD)」は解党させられ、その指導者アウンサンスーチー氏は拘束が続き、ほかの民主派も参加できない。当然、親軍政党の圧勝は確実と見られる。民意なきこの結果をもって、軍は「民政移管」を世界にアピールするだろう。
「しかし本当の選挙結果というのは、国際社会の反応にこそ表れると思っています。国際社会がこの選挙を認め、軍政を受け入れるということはないでしょう」
こう語るのは西方ちひろさんだ。
彼女は2021年、国際開発関連の仕事でミャンマーの最大都市ヤンゴンに住んでいたときにクーデターに遭遇。軍に銃口を向けられる市民とともに暮らし、ひとりひとりの声をSNSで発信し続けた。『ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか』(ホーム社発行、集英社発売)は、このときの記録をまとめたものだ。
描かれているのは、ときにしたたかに、ときにユーモアをもって、徹底的に「非暴力・不服従」を貫き、軍の支配に立ち向かう人々の姿だ。
毎晩8時になるといっせいに鍋やフライパンを叩いて抗議の意を示す。赤い風船をつけた屋台が現れ、赤い服をまとった人々が行き交い、民家のベランダでは赤い服ばかり干してあったりする。赤はスーチー氏が率いるNLDのイメージカラーなのだ。市民の抗議運動を弾圧しようと盾を構える警官隊にバラの花を手渡し、ダンスで民主主義を訴える若者たち。誰もかれもが抵抗を表す三本指を立てるジェスチャーをして、互いに微笑みながらすれ違う……。
「いろんな方法で非暴力・不服従の運動を繰り広げていく様子には圧倒されるものがありました。人々がどんな思いを胸に、どれほど必死に軍に抵抗しようとしているのか、その気持ちや行動を伝えたかった」(西方さん)
