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西尾潤氏『審美』インタビュー 「そのために人が死んでもおかしくない。『美』ってそれくらい怖いものだと思う」

西尾潤氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

西尾潤氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

 審美とは「美を審らかにすること」。元は近代哲学の一分野aesthetics(美学)に森鴎外があてた訳語らしく、そもそも人はなぜ美に惹かれ、美とは一体何なのか、その本質を問うことの途方のなさをこれほど投影した言葉もないかもしれない。

 西尾潤著『審美』の主人公〈輝山マム〉こと〈瀬川菊男〉も、そんな正体不明の魔物に魅入られた1人。物語は冒頭、享年91で世を去ったキザン化粧品会長の功績を称える訃報で始まり、第一章「ナガサキ」以降、当時12歳の彼が祖母の家で閃光を目撃し、〈太陽が爆発したと?〉と妹と話した、1945年8月9日からの出来事が順に綴られてゆく。

 その波瀾にみちた生涯は当然ながら日本の戦後史と歩みを共にする。原爆で母や兄を亡くし、6歳の妹〈サタヨ〉を連れて上京したものの、祖母が遺したなけなしの金を騙し取られ、身ぐるみを剥がされたところを、上野の森で身を売る男達に助けられ、食うために男娼の道へ。その後も縁が縁を呼ぶ形で美のカリスマへと上りつめる間、菊男は手にした成功の見返りのように、さらに多くのものを失っていくのである。

 昨秋、デビュー作『愚か者の身分』(2019年)が永田琴監督、向井康介脚本で映画化され、続編の書き下ろし文庫『愚か者の疾走』共々、広く注目を集める西尾氏。その一方でヘアメイク・スタイリストとしても活躍中の彼女がその道に進んだのも、実は化粧品やエステが入口だったという。

「私にはマルチにハマり、借金返済のために昼は正社員、夜はバイトで働いた時期があって、その時の就職先が化粧品会社の美容教育部だったんです。その頃に知った『審美』という言葉を編集者が気に入ってくれて、タイトルにすることだけを決めて、創作ノートをつけ始めたのが2022年7月。そして主人公を美容家にしようと決めてからも女性か男性かで二転三転したり、その美容家の人生はどんな人生なのかを考え、実際に書く中で、菊男の像がだんだんに育っていきました」

 資料も戦後史や美容史や原爆に関する本を読み漁り、映像資料も片っ端から観た。

「元々『映像の世紀』とかドキュメンタリー番組が好きでよく観てましたし、日本に初めてエステを導入した芝山みよかさんを始め、贅沢やパーマが敵視された時代を何とか団結して乗り切った美容関係者の評伝や、IKKOさんとか美輪明宏さんの本にも、グッとくる言葉がたくさんあって。

 菊男を長崎出身にしたのは、私の母が島原生まれだからです。戦中戦後を描く上で原爆のことを避けるわけにはいかないので、あえて菊男が原爆に遭った日から、物語を始めました」

 その長崎を後にし、東京の親戚とも連絡がつかない中、進駐軍の米兵らに身を売って何とか妹を食べさせ、〈傷なんてつかない。傷なんて、ついてやらない〉と呟く、12歳の覚悟が切ない。

「私にも妹と弟がいますが、もし自分が菊男の立場でも同じことをしただろうし、当時はどこの駅前にも戦災孤児が溢れ、駅の子と蔑まれながらも必死で生きていたり、もっと壮絶なドラマがたくさんあったと思う。実を言うと今回の菊男は私が今まで書いてきた中で最も自分に近い主人公で、自分が傷って認めなければ、それは傷じゃないんです」

 そしてようやく自分達の家も借り、幸せを掴みかけた矢先、サタヨが突然行方不明に。わざと〈狩込み〉を受けて養育院に潜り込み、情報を集めるうち、菊男は〈慈愛の家〉という施設である人物と出会う。銀座で美容業を営み、養子を探していた〈輝山千代子〉だ。

 美容師は亡き母の夢でもあり、〈美粧は、人の心を豊かにする〉と菊男も思う。唯一の気がかりはサタヨのことだが、長崎の幼馴染で実は想い人の〈義昭さん〉が〈よか縁の話やと思うばい〉と言ってくれたことで、いよいよ〈美容モンスター〉への道を歩み始めるのだ。

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