その後はいったん離れた読書を、就活終了後に再開。「読む」から「書く」へもそう時間はかからなかった。
「もちろん応募しては落ちての連続でした。当初は館ものや本格系の話が多かったんですけど、徐々に社会派といいますか、村上龍先生の『半島を出よ』とか、朝鮮人の特攻問題と甲子園を絡めた神家正成先生の『赤い白球』のように、元々興味のある近現代史や東アジア史を扱ったものの方が、自分の思いを素直にぶつけられそうな気がして。
それで歴史ものに初めて挑戦したのがこの作品で、歴史もミステリーも昔から好きなのに、なぜ組み合わせようと思えなかったのか、今でも不思議です(笑)」
第一章「傍若無人の廃帝」以降、基本的に1話につき謎が1つ解決する読みやすい構成。また各章末に廃帝自身が心情を綴る〈「溥儀の日記」〉が付されているのも、探偵役と違う角度で事態を眺められ、興味深い。
何より、溥儀も剛も若く、成長途上だけに、普通なら衝突は必至。が、宦官長の〈王翁徳〉ですら皇帝には絶対服従で、何ら反論されない孤高の人は、剛が〈人が死ぬということは、悲しいことです〉と苦言を呈し、本音で接するほど、〈どこかうれしそう〉なのだ。
ちなみに傍若無人は元来〈勝手に振る舞うさまを示す言葉ではないということをご存じですか〉と、翁徳が〈傍らに人が無の若く〉の由来となった秦代の故事について剛に教えるように、紫禁城独自の風習や階級、同じ時期に入宮した宦官が同じ字をもつ〈排行〉制度などが、蘊蓄というよりは謎を解くカギや背景として、直接絡んでくるのも必見だ。