国際情報

韓国マスコミの東京特派員 昔は人気だったが今は違うと識者

 緊張関係が続く日韓関係の裏側でなにが起きているのか。共同通信前ソウル特派員で「オーディション社会 韓国」(新潮新書)の著者である佐藤大介氏に「近くて知らなかった韓国」の内情について聞いた。(聞き手=ノンフィクション・ライター神田憲行)

 * * *
――イ・ミョンバク(李明博)大統領は竹島に上陸し、慰安婦問題に絡めて天皇に訪韓して謝罪を求めるなど、日本を刺激する行動を繰り返しています。来年の大統領選挙を睨んで支持率を上げるための行動だと言われています。

佐藤:確かに支持率は20%台から30%台に上がりましたが、それは一時的なもので、日本叩きをすれば支持率が上がるほど韓国国民は単純ではありません。実際、竹島上陸には多くの人が「なんで今の時期に行くのか」と呆れていましたし、外務省に当たる外交通商省の人間は同行していません。上陸した理由は支持率狙いだけでなく、慰安婦の問題もあると思います。

――慰安婦の問題が?

佐藤:従軍慰安婦の問題は、日本は解決済みという立場です。たしかに国際的にもそうです。しかし昨年8月、韓国の憲法裁判所が慰安婦の請求権を放置している状態は違憲だという判断を下し、これによって韓国政府はなんとかしなければいけない状況に置かれました。また国民的感情でも大きなしこりとなっています。李大統領は大阪生まれで実は親日家で、彼はこの問題に自分で目処を付けたかった。だから昨年の日韓首脳会議でもこの問題を野田首相に突っ込んでいます。しかし日本政府の態度は変わりません。それに対する李大統領の抗議の意味として、竹島上陸があったと思いますよ。

――しかし李大統領は天皇陛下に謝罪を要求するなど、日本国民を大きく刺激しました。

佐藤:大統領側の完全なミスです。韓国人からすれば天皇は昭和天皇のイメージのままなんです。しかし震災以降、天皇の献身的な姿勢を見て、親しみを持つ国民が少なくない。竹島問題だけだったら、「またいつものことか」と、あれほど日本人の感情に火を付けることもなかったでしょう。だから大統領もいま必死になって発言を修正しようとしていますね。一連の行動を見ていると、外交通商省と大統領周辺の仲がうまくいっていないと思いますね。

――李大統領は経済大統領として経済の立て直しを期待されて登場し、実際、サムスンなど韓国企業は好調です。なぜ支持率が低下したのでしょうか。

佐藤:国民の暮らしが良くならないからですよ。一部の大企業が儲かっているだけで物価は上がるし、競争は激化している。自分の生活実感として良くなったとは全く思えないからです。

――国民のそういう不満、ストレスが「日本叩き」に走らせている面はありませんか。

佐藤:それはどうでしょうか。韓国社会は若者が社会にものを言う雰囲気は日本よりありますよ。5年に1度の大統領選挙で自分たちのリーダーを選べるわけですから。韓国は大統領で新聞社の人事まで変わるくらい、風向きがガラッと変わるんですよ。国民生活に直結します。

――では今後韓国の大統領が変わっても、問題は続くと思いますか。

佐藤:韓国国民の99%は「独島(竹島の韓国名)は自分たちの領土」だと考えていますし、「慰安婦」問題も大きなしこりとして突き刺さっている。この二つは誰が大統領になっても日韓関係に横たわる問題として存在し続ける。しかし韓国政府は「日本バッシング(叩き)」から「日本パッシング(無視)」に軸足を変えつつあります。貿易の最大の相手国は中国です。外交通商省の東北アジア局のトップはこれまでずっと日本畑の人だったのですが、今度初めて、中国畑の人になりました。東北アジア課の1課はかろうじてまだ日本担当なんですが、中国担当が2課と3課に増えました。マスコミにしてもかつては東京特派員は人気だったのが、今はそうではありません。ジワジワと中国の影響力が増してきて、日本の影響力は低下してきているのが実態だと思います。

※プロフィール
佐藤大介(さとう・だいすけ)1972年北海道生まれ。2002年共同通信社入社、2007年韓国・延世大学に社会留学、2009年3月から2011年末までソウル特派員。


関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン