国内

勝谷誠彦 陛下の言葉を芸人トークのように編集したTVを嘆く

 震災直後から全局が報道特番一色となったテレビ局。しかし、その内容といえば、扇情的な映像を繰り返すばかり。弊害多きテレビの現状を勝谷誠彦氏が嘆く。

 * * *
 今回の日本のテレビ報道には震災、原発いずれにもヒリヒリするような映像がない。海外の放送を見ていると、必ず映像には自衛隊や米軍が映りこんでいる。
 
 BBCの記者は被災者と一緒に津波の危険から逃げていた。日本のテレビ局は、イラク戦争の時などと同じように臆病だからそうした場所に行かないのか、あるいは妙なイデオロギーのせいで自衛隊などの活躍を流さないのか。死体の映像も避けている。見たいか見たくないかを判断するのは視聴者である。おまえたちのない脳味噌で勝手に判断するのは、これは検閲にほかならない。
 
 私がもっと腹が立ったのは天皇陛下のお言葉のテレビ局での扱いだった。陛下が自ら私たちの前にお出ましになり、踏み込んだ発言をなされた。皇室不要論者に場合によっては政治的だと指弾される可能性までおかして陛下は直接お話しになられた。
 
 それは私に終戦時の昭和天皇を彷彿とさせた。まさに最大の有事にあたっての「平成の玉音放送」だと頭が下がった。陛下は現場で命をかけている人々として最初に自衛隊の名を挙げた。
 
 ずっと「鬼っ子」だった自衛隊を陛下が激励されたのである。ある最高幹部から聞くところでは、これを受けて隊員たちは涙し、奮い立ち、それが命をかける行動にも駆り立てていったのだと言う。まさに、最後で最大の日本民族の切り札である陛下が立ち上がり、救国のために行動されたのだと思う。
 
 陛下は「非常事態が発生した場合は発言のビデオを途中で中断してください」と言葉を添えられたという。この大前提は陛下のお言葉を途中で切るなどということは畏れ多いという、日本のテレビ局ならば連綿と受け継がれてきたはずの想いがある。ところが。
 
 緊急放送のために切るどころか、テレビ局は陛下のお言葉を時にはつまんで流しやがった。お言葉は陛下ご自身が練りに練られたものと拝察できる。それをバラエティのタレントの馬鹿喋りのように「編集」したのである。
 
 ユーチューブなどで「オリジナル」を観た膨大な数の国民が呆れ、怒り「ああテレビというのはやはりその程度の人間が作っているのか」と再確認したことを、一連の災禍がややおさまったころに局は思い知るがいい。

 この程度のテレビ局だからそんなことまで思い至るわけはないが、私が彼らであれば「陛下のお言葉を聞く被災地の人々」を流しただろう。皇室は皇室だけとして存在するものではない。国民との紐帯があってこそはじめて「最後で最大の切り札」となりうるのである。避難所で陛下のお言葉に接し、頭を垂れ、涙する人々の姿を観て、ほとんどの日本人は改めて何が起きたかを痛感しひとりひとりが出来ることを考えるだろう。
 
 陛下は被災者の方々を敢えて「雄々しさ」と表現された。これは終戦直後に昭和天皇が使われた言葉でもある。日本人を鼓舞し、復興への大行進に向かわせる励ましである。お言葉を聞く被災者の方々の映像はその背を押したであろうに、テレビ局は貴重な機会を捨て去った。

※SAPIO2011年4月20日号

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト