ライフ

政権交代の悪夢 「愚かな鳩山内閣」から「卑劣な菅内閣」

【書評】『政権交代の悪夢』(阿比留瑠比/新潮新書/756円)

【評者】山内昌之(東大教授)

 * * *
 筆者が全国紙政治部の現役記者であることを知る人もいるはずだ。阿比留瑠比という珍しい姓名に加えて、記者会見で菅首相が名前をわざわざ挙げて反論するジャーナリストもまずいないからだ。しかし、本書における菅政権批判の論調は鋭いにせよ、内容は論理的にも説得力にあふれている。

 民主党政権の大臣や有力者の出身母体を分析しながら、政権を旧自民党と旧社会党の合体した「55年体制の完成形」と定義するあたりは鋭い。古い自民党政治に飽きた有権者は「新しい政治を選ぼうとして、もっと古色蒼然とした政治を掴まされた」という指摘は、政権交代に期待したはずの有権者のいまキツネにつままれた嫌な気分をうまく言い当てている。

 とくに菅政権については、そこから田中角栄の直系政治家たる小沢一郎氏を排除した結果、より純化されて昔の社会党に近づいたというのだ。確かに、「疑似社会党政権」だと考えると菅首相らの政策、思想傾向、政治手法が理解しやすい。民主党では、自民党顔まけの子ども手当や高速道路無料化などのバラマキ政策の一方、公務員の定員や手当の削減に反対しながら、国家や安全保障の基礎を真面目に考える議員が少なかった。

 鳩山由紀夫氏を超える「史上最低の首相」を想定しがたかった筆者も、大衆迎合と「ずるさ」で首相になった菅氏のしたたかさを過小評価していたようだ。「愚かな内閣」から「卑怯な内閣」に変わった後に、「臆病」「うそつき」「無責任」の替え歌メロディーが永田町に広がったように、菅首相は大震災での対応ぶりでも「国民の軽蔑」を買ったという。

 閣僚が国会で嘘をついても責任を問われないという答弁書を閣議決定した点を挙げて、筆者は「逃げることにも、嘘をつくことにも何の抵抗も感じない恥知らずな内閣」ではないかと手厳しい。政権交代という壮大な「実験」も失敗に終わったという指摘はもはや誰もが否定できない。一読後、意志力と責任感に富むリーダーの出現を待望したくなる本である。

※週刊ポスト2011年6月3日号

関連記事

トピックス

本格的に中国進出をめざすならば…(時事通信フォト)
《年内結婚報道》橋本環奈と中川大志の「結婚生活」に立ちはだかる“1万kmの距離” 2人の異なる“海外進出の希望先”
週刊ポスト
「池田温泉旅館 たち川」の部屋風呂に「温泉偽装疑惑」。左はHPより(現在は削除済み)、右は従業員提供
「水道水にカップ5杯の重曹を入れてグルグル…」岐阜県・池田温泉「高級旅館」の部屋風呂に“温泉偽装”疑惑 ヌルヌルと評判のお湯の真実は…“夜逃げ”オーナーは直撃に「誰からのリークなの? それ」
NEWSポストセブン
これまでジャズ歌手などとしても活動してきた参政党・さや氏(写真/共同通信社)
参政党・さや氏、歌手時代のトラブル証言 ジャズバーのママが「カチンときて縁を切っちゃいました」、さや氏は「そうした事実はない」…真っ向食い違う言い分
週刊ポスト
もうすぐ双子のママになる。Numero.jpより。
Photos:Mika Ninagawa
中川翔子3年にわたる不妊治療と2度の流産を経験 。 双子の男の子のママになる妊婦姿を披露して話題に
NEWSポストセブン
錦織圭とユニクロの関係はどうなるか(写真/共同通信社)
「ご本人からの誠意ある謝罪があった」“ユニクロ不倫”錦織圭、ファーストリテイリング広報担当が明かしたスポンサー契約継続の理由
週刊ポスト
趣里と父親である水谷豊
《女優・趣里の現在》パートナー・三山凌輝のトラブルで「活動セーブ」も…突破口となる“初の父娘共演”映画は来年公開へ
NEWSポストセブン
岐阜の「池田温泉旅館 たち川」が突然の閉鎖、事業者が夜逃げした(左は旅館のInstagramより)
【スクープ】岐阜県の名所・池田温泉の人気旅館が突然の閉鎖 町が運営委託した事業者が“夜逃げ”していた! 町長からは228万円の督促状、従業員が告発する「オーナーの計画」 給料も未払いに
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏は2017年にダブル不倫が報じられた(時事通信フォト)
参院選落選・山尾志桜里氏が明かした“国民民主党への本音”と“国政復帰への強い意欲”「組織としての統治不全は相当深刻だが…」「1人で判断せず、決断していきたい」
NEWSポストセブン
オンカジ問題に揺れるフジ(時事通信)。右は鈴木善貴容疑者のSNSより
止まらない「オンカジドミノ退社」フジテレビ社内で話題を呼ぶ
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《元人気芸妓とゴールイン》中村七之助、“結婚しない”宣言のルーツに「ケンカで肋骨にヒビ」「1日に何度もキス」全力で愛し合う両親の姿
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《まさかの“続投”表明》田久保眞紀市長の実母が語った娘の“正義感”「中国人のペンションに単身乗り込んでいって…」
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【スクープ】大谷翔平「25億円ハワイ別荘」HPから本人が消えた! 今年夏完成予定の工期は大幅な遅れ…今年1月には「真美子さん写真流出騒動」も
NEWSポストセブン