国内

幕末の日本人 三連続大地震、コレラを克服し明治維新を達成

 今回の東日本大震災では多くの人命が失われた。かつて、われわれ日本人は、このような大震災に遭遇しながら、いかに苛酷な運命に立ち向かい克服して行ったか。作家・井沢元彦氏が論ずる。

 * * *
 日本史上最悪の「トリプルパンチ」つまり三連続地震は、こともあろうにあのペリーが黒船で日本にやって来た一八五三年(嘉永6)の翌年から始まった。

 まず安政東海地震(日本年号はまだ嘉永で安政に改元されていないが便宜上こう呼ぶ)だ。いわゆる東海地震の安政版で、マグニチュードは八・四、現在の静岡県にあった駿府城、掛川城は倒壊した。城が倒壊するくらいだから民間の被害はさらに甚大であった。

 最大震度は七と推定されている。そしてこの大地震で発生した大津波により、周辺の町や村は壊滅的な打撃を受けた。当時、ロシアのプチャーチンは戦艦ディアナ号で伊豆国下田を訪れていたが、下田の町は壊滅しディアナ号も大破、後に沈没した。これは一八五四年十二月二十三日(以下すべて西暦)の出来事だが、ペリーはこの年の夏まで下田にいたから、もっと早く起こっていればペリー艦隊も大打撃を受け歴史は変わっていたかもしれない。

 そして、この安政東海地震のまさに翌日(約32時間後という)に、今度は豊予海峡を震源とするマグニチュード八・四(東海地震と同じ)の大地震が起こった。推定震度は陸上では六だったが、伊予国から土佐国(高知県)にかけて家屋倒壊および火災(ちょうど夕食時だった)により、多くの人命が失われた。もちろん大津波(土佐久礼で16メートル)もあったが、前日の東海地震による津波が警告となって人的被害は比較的少なくて済んだ。

 ただし人は避難できても家屋はできないので流失家屋は特に土佐ではなはだしかった。江戸にいた坂本龍馬はこの報を聞き、あわてて緊急帰国したという話がある。

 そして、それから一年もたたない一八五五年の十一月十一日、首都の江戸をマグニチュード六・九の地震が襲った。東南海地震に比べてマグニチュードは小さく震度も六だったが、これは人口密集地で起こった直下型地震であった。

 発生は夜遅くであったが、深川など下町方面では火災が発生した。埋立地の多い日比谷、大手町、築地、品川といったところでは大名屋敷が崩れ、江戸城も半壊した。江川太郎左衛門が「黒船防ぎ」のため突貫工事で作った台場(砲台島)もかなりの部分が破壊された。死者は四千人を越えたという。この中には家屋倒壊で圧死した、水戸斉昭の腹心藤田東湖もその数に入っている。

 つまり、東海地方で大地震が起こり翌日関西がやられ、一年たたないうちに今度は首都が壊滅状態に陥ったということだ。

 これを安政三大地震と呼ぶ。

 地震のメカニズムについてはまだまだわからないことが多くある。科学者の中には「現時点では有用な地震予知など不可能だ」と考える人もいる。

 しかし、そういう科学的視点は別にして、経験則で見てもはっきり言えることは、今後同じようなことがあってもおかしくない、ということだ。

 われわれの先祖はこの「トリプルパンチ」のあと、コレラという伝染病に見舞われた。一八五八年から始まった大流行で江戸での死者は十万人という説もある。合わせて幕末の争乱である。幕府の経済政策の失敗から国内はとてつもないインフレに襲われた。

 三連続大地震、テロ、戦争、伝染病、超物価高――だが、われわれの先祖は負けなかった。見事に明治維新を成し遂げたのだ。

 今度、幕末を題材にした映画やテレビドラマを見る時には、坂本龍馬や西郷隆盛らの活躍だけではなく、その背景にそうした庶民の奮闘があったことを感じて欲しい。これは実際にわれわれの先祖が成し遂げたことで、われわれはその子孫なのである。

※週刊ポスト2011年6月10日号

関連記事

トピックス

(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン