国内

『はやぶさ』孫請け下町工場 文科省表彰まで部品搭載知らず

「直木賞」受賞作『下町ロケット』はロケット作りに懸命に取り組む町工場のストーリーだ。そんな同作を生んだ、下町の夢と誇りとはどんなものなのか。〈小さな大企業〉のカネとモノづくりは、どのようにしてなされているのか。作家の山藤章一郎氏がリポートする。

 * * *
 京浜工業地帯・大田区蒲田を発する線路伝いを来て、古ぼけたビルに着いた。細い階段を2階にあがる。額が飾られていた。

「感謝状
 はやぶさプロジェクト
 サポートチーム殿
 あなたがたは小惑星探査機『はやぶさ』プロジェクトを通じて世界初となる小惑星への離着陸かつ地球帰還、さらに小惑星から試料回収を成功させることに大きく尽力されました。よってここに深く感謝の意を表します」

 文科省からの賞状だった。ところがこの〈東京通信機材(株)〉は自分たちのつくったパーツがはやぶさに使われているとは思ってもいなかった。ロケットの燃料タンクの切り離し部品である。

 7年かけて帰還したはやぶさが喝采を浴び、表彰しますといわれて初めて搭載を知った。

 だが、30年ほど前からロケット事業に参加している同社営業部・根本仁さんの口は重い。

「国のからむロケットやはやぶさは規制が多く、お話しできないことがほとんどで、元請けの名はいえません。孫請けの弊社は、ひたすら技を駆使し発注元の設計図通りにつくっています」

 はやぶさ本体、ロケット、探査衛星から成る、はやぶさプロジェクトのメーカーはNECとJAXAと三菱重工である。その下を元、下、孫、約200の企業が請ける。

 1号の成功で、はやぶさ2のパーツの見積もりも来ている。

「こんな小指くらいのパーツですが、テストが大変なんです。100個つくって90個はテストに使う、実際に搭載するのは残った10個、が現状です。これ、見た目、ホームセンターで売ってる水道部品みたいでしょ。ところがこれは、削るのが難しいと書いて〈難削材〉と呼ばれる素材で熟練者の加工じゃないと、刃が負けてしまいます。ステンレス630に近いのですが、正式な名称は勘弁してください」

 そして氏は、これからはやぶさ2に「乗るんだ」という気持ちの作業が始まるので「嬉しいです」と控えめにつけ加えた。

※週刊ポスト2011年8月19・26日号

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン