国内

暴力団排除条例 パンチやタトゥー社員も疑われる恐れ指摘

「暴力団と交際しない」と施行された暴力団排除条例。国民や会社も処罰の対象となる。だが、困ったことに新法は適用のハードルがどんどん下がっていくのが常だ。セクハラやパワハラ同様、何でもかんでも「罪」になる危険性があると指摘するのは、危機管理専門家でリスク・ヘッジ代表の田中辰巳氏だ。

* * *
10月1日、東京都と沖縄県で暴力団排除条例が施行されたことにより、同条例は日本全国で出揃うことになった。

東京都(警視庁)は従来から『暴力団を恐れない』『暴力団に金を出さない』『暴力団を利用しない』を暴力団排除の三本柱としてきたが、条例の施行によって『暴力団と交際しない』という柱が新たに加わったのである。

この条例では、暴力団関係者を『暴力団員とその密接な関係者』と定義している点と、都民の責務として『暴力団排除活動に自主的に、かつ、相互に連携して取り組むこと』が定められている点に留意すべきである。

すなわち、密接な関係者とは誰のことか、その範囲を認識しておかなければならない。そして、この条例が暴力団だけではなく、都民(主に事業者)にも処罰を与えるものである、ということを認識しておかなければならない。

具体的に言えば、暴力団員の親族あるいは暴力団員の恋人や幼馴染みも、排除の対象としなければならないのか。そして、そうした人達の冠婚葬祭への出席や、街や学校などの行事(お祭りや父兄会や運動会)における接触まで敬遠するべきなのか。腹を固めておかなければならないのだ。

線引きは難しいものの、社会通念を軸にして判断し、迷ったら警察や暴力団追放運動推進都民センターに相談すれば良い。

しかし、困ったことに、法律や条例が施行されると、その適用は徐々にハードルが下がってくる。言い換えれば社会通念が変わるということだ。

例えば、1985年に男女雇用機会均等法が成立(翌年施行)し、1997年の改正(翌々年施行)でセクシャルハラスメント規程が創設されて以来、加速度的にセクハラのハードルは下がった。猥褻行為や卑猥な発言が対象とされていたものが、今では「結婚の予定はありますか」と女性の部下に聞くことすらボーダーラインとなった。

2005年に労働安全衛生法が改正(翌年施行)され、メンタルヘルス対策が企業に義務付けられてから、パワーハラスメントも加速度的にハードルが下がった。人前で怒鳴るとか退職や左遷を口にするとかが対象とされていたものが、今では「君は暗いね」と部下に注意することすらボーダーラインとなった。

これらと同じような展開は、暴力団排除条例にも起きてくるに違いない。前述した暴力団員の親族の冠婚葬祭や、街や学校などの行事における接触も、大事をとって敬遠される可能性が高い。

それどころか、タトゥーを入れた社員がいる会社も、パンチパーマや茶髪の社員がいる会社も、常に疑いの目を持って見られかねない。しまいには、歓楽街に出かけることすら躊躇する時代が来るのかも知れない。これらは、暴力団排除条例の目指す着地点ではないのだが…。

そんなことになれば、ようやく出来た暴力団排除条例の存続すら危うくしてしまう危険性がある。それを避けるためには、各企業や各個人が自ら明確な判断基準を持つ必要がある。もちろん警察も明確に示していく必要がある。

私は、暴力団関係者とは『自らの意思によって暴力団員と親密な関係を維持している者』と定義している。また、排除すべきは、暴力団関係者に『有形無形な利益を与える行為』と『有形無形な利益を求める行為』であると考えている。

当然ながら、将来的に利益を与えたり、利益を得るために交際するのも排除されるべきである。また、交際とは言葉を交わすか否かとか、合う頻度というような形式的な事ではなく、心の絆の有無を指すものと理解している。

これに照らせば、島田紳助さんはアウトとしか言いようがないのである。加えて彼の引退会見には、重要な欠落があった。それは、自らの犯した過ちに関する謝罪の言葉だ。

例えば「全国の皆さん、そして私のファンの皆さんの中にも、暴力団の被害に遭われた方々は多数いらっしゃると思います。そういう方々にとって、私と暴力団との関わりが、極めて不愉快であることに思いが至りませんでした。心からお詫びを申し上げます」と謝罪したならば、印象は大きく違ったであろう。

暴力団排除条例は生まれたばかりである。暴力団対策法と同じように、様々な改正や判例によって完成されていくだろう。従って、都民には「この条例を皆で育てていく」という意識が必要なのである。

一方、暴力団排除条例は暴力団には厳しいものになるだろう。「差別だ」との意識を持つかも知れない。しかし、差別とは国籍や肌の色などの、『自分では変えられないこと』によって不利益を受けること。暴力団は自分でやめることができる。宗教や思想の団体でもない。ならば、差別ではないと言えよう。


関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン