国内

30年前に大論争の丸山ワクチン 外国人からも使用の要望来る

がんの3大治療である手術、放射線、抗がん剤の治療を進行度合いによって受けることができなければ、患者は天から見放されたような気分を味わうという。生きる術を求めて必死になっている患者への“救いの手”のひとつが、かつて日本中の注目を集めた丸山ワクチンだ。いまだ認可されていない“がん治療薬”は、現在も年間3万人もの患者に使用されていた。

手術、放射線、抗がん剤という、従来からあるがんの「標準治療」の限界が明らかになりつつある。がんを切除しても、再発、転移し、しかも合併症にも悩まされるといった例が無数に見られる。副作用の悩みも尽きない。そのため、漢方薬、健康食品などを使った「代替療法」が注目されつつある。なかでも免疫細胞の働きを強化してがん細胞を攻撃する「免疫療法」が、21世紀のがん治療を担う主力として期待されている。

30年前、その元祖ともいえる薬が、認可をめぐって大論争、大騒動を巻き起こしたことがある。開発者・丸山千里博士(故人。日本医科大学名誉教授)の名前を冠した「丸山ワクチン」である。

丸山ワクチンは、1976(昭和51)年に製薬会社・ゼリア新薬からがんの治療薬として製造承認が申請されたが、1981年に旧厚生大臣の諮問機関だった中央薬事審議会で「現時点では有効性を確認できない」という結論が出され、認可が見送られた。審議会での審議は客観性や公平性を欠いていたという批判が渦巻き、国会での論議にまで発展した。ちなみに、衆議院議員に当選したばかりの菅直人前首相も、当時、認可を求める患者組織を支援していたひとりである。

通常、薬として認可されなければ、製薬会社は商品化を断念し、患者に使用されることはなくなる。ところが、丸山ワクチンの場合、治療効果を信じる多くの患者たちから「使い続けたい」という強い要望があった。それを受け、当時の厚生省は苦肉の策を取らざるを得なかった。

治験薬は本来、患者に無料で提供されるが、丸山ワクチンは、患者が全額自己負担する「有償治験薬」として使用を認められることになったのである。この「有償治験薬」は日本では丸山ワクチンが唯一の例である。以来、一部のがん患者たちに使われ続けている。

丸山ワクチンを使った治療を希望する場合、通常よりも若干煩雑な手続きが必要だ。

投与を希望する患者やその家族は、まず主治医に「治験承諾書」を書いてもらい、故・丸山博士が1972年に設立した日本医科大学付属病院ワクチン療法研究施設(東京)で初診(レクチャー)を受けてワクチンを購入。それを主治医のもとに持ち帰って投与(注射)してもらう。

承諾書を発行し、投与を行なってくれる医療機関に指定や制限はなく、故・丸山博士の次男で、NPO法人「丸山ワクチンとがんを考える会」事務局長である丸山達雄氏によれば「現在、全国で約2万の医院が対応している」という。

丸山ワクチンががんの治療に使われ始めたのは1964年。以来、現在に至るまでのべ約39万人もの人に投与されてきた。同ワクチン療法研究施設所長の永積惇氏によれば、2010年の1年間だけでものべ3万人近くに投与され、そのうち新たな患者も2600人を超える。現在までに使用期間が1か月以上、5年未満の症例数は15万6600人、5年以上10年未満の症例数は1万800人余り、10年以上の症例数は7000人余りに上る。

※週刊ポスト2012年2月3日号

関連記事

トピックス

中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン
渡邊渚アナのエッセイ連載『ひたむきに咲く』
「世界から『日本は男性の性欲に甘い国』と言われている」 渡邊渚さんが「日本で多発する性的搾取」について思うこと
NEWSポストセブン
 チャリティー上映会に天皇皇后両陛下の長女・愛子さまが出席された(2025年11月27日、撮影/JMPA)
《板垣李光人と同級生トークも》愛子さま、アニメ映画『ペリリュー』上映会に グレーのセットアップでメンズライクコーデで魅せた
NEWSポストセブン
リ・グァンホ容疑者
《拷問動画で主犯格逮捕》“闇バイト”をした韓国の大学生が拷問でショック死「電気ショックや殴打」「全身がアザだらけで真っ黒に」…リ・グァンホ容疑者の“壮絶犯罪手口”
NEWSポストセブン
“ミヤコレ”の愛称で親しまれる都プロにスキャンダル報道(gettyimages)
《顔を伏せて恥ずかしそうに…》“コーチの股間タッチ”報道で謝罪の都玲華(21)、「サバい〜」SNSに投稿していた親密ショット…「両親を悲しませることはできない」原点に立ち返る“親子二人三脚の日々”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「山健組組長がヒットマンに」「ケーキ片手に発砲」「ラーメン店店主銃撃」公判がまったく進まない“重大事件の現在”《山口組分裂抗争終結後に残された謎》
NEWSポストセブン
ガーリーなファッションに注目が集まっている秋篠宮妃の紀子さま(時事通信フォト)
《ただの女性アナファッションではない》紀子さま「アラ還でもハート柄」の“技あり”ガーリースーツの着こなし、若き日は“ナマズの婚約指輪”のオーダーしたオシャレ上級者
NEWSポストセブン
財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン