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谷亮子 「柔道人生でライバルと思える選手はいなかった」

 民主党参議院議員・谷亮子が初めて五輪に出場したのは1992年のバルセロナ五輪。16歳の時だ。以来、通算5度(金2、銀2、銅1)も出場したYAWARAちゃんも2010年の国会議員転身によって、第一線から退いた。来月27日開幕のロンドン五輪を20年ぶりに傍観者として迎える谷にいまの胸中をノンフィクション・ライターの柳川悠二氏がインタビューした。

――あなたを2度破った女子48キロ級の福見友子選手(了徳寺学園)が初めて五輪に出場する。

谷:彼女なら勝てるんじゃないですか?

〈谷は無関心を装うが、彼女にとって福見は因縁の相手だ。2002年の選抜体重別選手権では当時高校生だった福見にアトランタ五輪決勝以来続いていた連勝記録を65で阻止された。〉

――福見戦の敗北は、忘れられない一戦では。

谷:う~ん、初めて負けた2002年の試合は、彼女はまだ国内でも5、6番手の選手だった。合宿で一緒になっても『頑張っている子がいるなァ』と思うぐらいで、私の中で特別に意識する選手ではありませんでした。

――当時のあなたはキャリアの絶頂期。対日本人の連勝記録も98に伸びていた。

谷:ずっと勝ち続けているからこそ、勝利を欲する自分というのが欠けていた。そんな時に日本人選手を相手に足下をすくわれたのは、私の柔道に大きな刺激を与えてくれたと思います。五輪を目指そうという気持ちを奮い立たせてくれましたから。

―― 一躍スポットライトを浴びた福見選手と再び交錯したのは5年後だった。福見選手は、“ポスト谷”を担う1番手に成長していた。

谷:あの時の私は出産後でアスリートの身体に戻っておらず、この大会に照準を定めていたわけではなかったから(負けた)。それでも試合に出場したのは結婚や子供を産んだアスリートのための環境作りをしたいという気持ちがあったからです。日本では既婚者や子供のいる女性がアスリートを続けられるだけの環境が整っていなかった。勝敗よりも、まず畳の上にあがり、私のメッセージを発信することが重要だったんです。

〈福見に2度目の敗北を喫した2007年の選抜体重別選手権はリオデジャネイロ世界選手権の代表選考会を兼ねていた。当時、福見は国内大会の選考レースで勝利を重ね、国際大会でも結果を残していた。しかし最終選考会では谷に勝利したにもかかわらず、代表に落選した。〉

――福見選手の関係者は当時、代表選考を不服としてスポーツ裁判所に提訴する考えもあった。

谷:そうなんですか……。

――あなたは“YAWARA”として、常に笑顔で明るく、前向きに振る舞う一方で、アスリートとしては唯我独尊タイプだった。代表に落選した福見選手を労(ねぎら)うような発言は一切しなかった。それは女王としての矜恃なのか。

谷:確かに彼女は国際大会で活躍していましたけど、私にはそれまでに積み上げてきた実績がありました。なんというのかな、当時の国内大会では、優勝する選手というのが毎年異なっていた。福見選手は、翌年の北京五輪予選でも結局決勝まで残れなかった。世界を相手に戦うという点においては安定感が兼ね備わっていなかった。だから、リオデジャネイロ世界選手権も北京五輪も代表には私が選ばれたのではないでしょうか。

――現役時代、あなたにライバルはいたのか。

谷:……ライバルは、私の柔道人生の中でライバルは作れませんでした。国内外でいろいろな選手が台頭しては消えていく中で、ライバルと思える選手はいなかった。だからこそ、私が一度や二度負けたぐらいで代表から落選するはずはないという考えが私自身の中にあったのは事実です。

※週刊ポスト2012年7月6日号

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