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櫻井よしこ氏 日本はASEAN諸国が頼りにしている自覚を持て

 ベトナムをはじめ東南アジア各国を長年取材してきたジャーナリストの櫻井よしこ氏は、「ASEAN諸国は、次の時代を左右する重要なプレーヤーです」と指摘する。そして中国の脅威に晒される彼らは、日本のリーダーシップに期待し、ともに歩んでいくことを望んでいるという。我々は彼らとどう手を携え、どのように繁栄の道を進むべきなのか。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が提言する。

 * * *
 かつてアメリカと戦ったベトナムや激しい反米運動を展開したフィリピン、そしてイスラム教徒が多いインドネシアを含め、東南アジア諸国はアメリカに対する過去のしがらみをすべて乗り越えて眼前の中国の脅威に立ち向かうためにアメリカと接近しつつあります。

 彼らはまた、日本に対しても強い関与を求めています。東南アジア諸国にはアメリカに対して内心、複雑な思いを抱いている国もある一方、日本に対してはほとんどの国が親近感を持ち、尊敬し、信頼しています。

 重要なのは、東南アジア諸国は日本にとって価値観を共有できる相手であり、真のパートナーとなり得る存在だということです。

 東南アジア諸国は、戦後日本を苦しめてきた歴史問題についても、日本に対するマイナスイメージは持っていません。「歴史認識」で日本を非難するのは、証拠もないのに「20万人が強制連行されて性奴隷にされた」などと捏造した歴史を国際的に喧伝する北朝鮮や韓国、虐殺などなかったことが明らかになっているのに「南京大虐殺」を吹聴する中国だけです。

 例えばインドネシアの中学校の歴史教科書には「日本の占領は、後に大きな影響を及ぼす利点を残した」と、日本による統治を評価する記述があります。

 実際にアジアの国々を訪ねて話を聞くと「日本が戦ってくれたことで、我々は独立できた」と感謝し、大東亜戦争時の日本の軍人は立派だったとまで語ります。そして時には中国の傍若無人を厳しく批判し、中国に対峙するため、日本にもっと前面に出てほしい、そうするのがむしろアジアの大国としての責任だというのです。東南アジア諸国との連携強化構想は、日本を長く苦しめてきた歴史問題を転換していく大きなチャンスになるはずです。

 東南アジアの国々は日本に期待する一方で、東シナ海における日本の対応を固唾をのんで見守っています。2010年9月に領海侵犯した中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した時、菅直人首相が中国の顔色をうかがって船長らをさっさと送り返してしまったことには、失望を超えて「理解できない」という人さえいました。当然のことですが、「なぜ日本は中国に対してこんなに弱腰なのか」という歯がゆさも抱いています。

 歴史問題について日本は物言わずしても東南アジア諸国の支持を得ています。なぜなら、彼らもまた中国の捏造や虚偽の宣伝に苦しんでいるからです。南シナ海に中国が引いた点線に何の歴史的根拠もないことは東南アジア諸国が一番よく知っています。

 ベトナムやフィリピンをまるで属国のように見下す中国に、そうする歴史的根拠が何もないことは、当のベトナムとフィリピンが一番よく知っています。中国による歴史の捏造に苦しんでいるからこそ、彼らは日本が中国から言いがかりをつけられているのがわかるのです。にもかかわらず、日本がはっきりと中国に物を言わない。そのこと自体がおかしいと彼らは言います。

 今年春にベトナムを訪れた時も、現地の人々には「日本は大国なのに、なぜ遠慮ばかりするのか、なぜ過剰なまでに卑屈になるのか」と言われました。多くの日本人には実感が湧かないかもしれませんが、彼らからすれば、日本は光り輝く技術を有する国で、どこに行っても清潔で高度に発展している素晴らしい国なのです。彼らは中国ではなく、日本を頼りにし、誇りに思っているのです。日本人はその自覚と自信を持ち、東南アジアの国々との連携を強めていくべきです。

※SAPIO2012年10月3・10日号

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