ライフ

直木賞作家・石田衣良「無料でなければすぐ諦める若者たちへ」

2013年は「我慢の1年」と語る石田衣良氏

 2013年をどう生きるか、直木賞作家・石田衣良さんに聞く。テーマは経済。「どん底から見える日本の希望」について語ります。(聞き手=フリーライター・神田憲行)

 * * * 
--今年の経済、景気はどう見ますか。

石田衣良:まあ、大底、どん底の年になると思いますよ。円安にするのはいい手ではありますけれど、輸出企業がどんなに儲かっても、将来が暗いので経営者も怖くて給料をあげてくれませんよ。賃金そのままでモノの物価だけが上がるので、みんなの生活が苦しくなる。我慢の1年ですね。

--なにが問題だと考えていますか。

石田:少子化で人口が減っていることと、世界で売れる製品が作れなくて、日本人ひとりひとりの稼ぐ力が落ちていることです。解決するには恋をして結婚して子どもを作り、コツコツと目の前の仕事をこなしていくしかないですね。

--日本の家電メーカーがのきなみピンチですもんね。

石田:象徴がダイソンとルンバです。本来はああいうちょこちょこした掃除機みたいなのは日本のお家芸だったはず。スマホもパソコンをギュッと小さくするのは日本が得意だった。世界に流通するフォーマットを作り出したのは、もうゲーム機をのぞいてないんじゃない?

 でもアメリカの電気メーカーもそうやって日本にやられて、テレビを作っている会社が無くなったわけですから、次は順番からいって、中国や韓国のメーカーに日本の家電メーカーが潰される可能性は十分にある。そこを見極めた上で次に出て行くなり、鍛え直すことを考えた方が良い。でもね、僕が考える「大底」は「明るい大底」なんです。

--明るい最低なんですか。

石田:ヨーロッパの債務危機もなんとか片が付きそうだし、オバマ大統領も再選狙いでなく歴史に名前を残すような大きな仕事をしそう。みんなヨーイドンでどん底からスタートするんですよ。底を打つと矢印が上に向くしかないから、逆に明るくなるんですよ。

 日本はいいポジションにいるんですよ。人口がある程度いて、中国のような巨大市場に近い。でもそれに完全に飲み込まれない形でアメリカとかスーパーパワーと仲良くしている。中国もアメリカも日本を相手側に追いやりたくないので、なんだかんだいいながら丁寧に扱っている。日本人がそうそう自信を無くす状況ではないですね。

--中国との関係が不安ですが……。

石田:必ず良くなると思います。そうでないと日本が生き残る道が無くなるから。

 昨年、ブックフェアの招待で初めて上海に行ったんですよ。会場でもの凄い行列を見て「あれはなんですか」って訊ねたら「石田さんのサイン会を待っている人たちです」といわれました。カートがしなるくらいばんばん本をかっている人も大勢いて、世界でいちばん本が売れている現場じゃないかと思いました。

 僕の作品は中国では「アキハバラ@DEEP」がドラマ化されているし、韓国でも月島がないのに「6TEEN」が映画化されました。もうなんで受けてるのか謎です。

 でも今の日本はそういうポジションで、文化財では東アジアの中心になれる。イギリスの経済市場調査によると2050年に世界の富の5割とか6割が東アジアにギューと集まるそうで、そうなったら東京はハリウッドみたいになりますよ。中国の若い子たちは日本のファッションとか文化に本当に興味があるんです。世界の富の半分くらいがアジアに集まった30年後くらいに、日本でも映画の脚本代が1本2億とかとれるようになりますよ。なのでそういう時代目指して、いま音楽とか小説とか目指している人は、どんどん技を磨いていけばいいんじゃないですかね。 
 ただそこで若い人にいいたいことがあります。

--なんでしょうか。

石田:去年、朝井リョウ君(「桐島、部活やめるってよ」著者)と対談したんだけれど、朝井君のような23歳の若者と歳下の20歳ぐらいの人がまた消費態度が違うと話をしていた。朝井君の世代はまだかろうじてお金を出してモノやサービスを買うけれど、20歳ぐらいの人はまず「無料」でないか探す。あれば不便であっても、我慢して使う。有償にアップグレードすることはしない。もし無料で使えるサービス、モノがなければ諦めるというんですよ。そういう人たちが大人の世代になってきたら、どうなるんだろう。

 いま音楽家とかもなかなか食えない時代ですよね。YouTubeで無料動画だけみて満足している人も多い。でも適正なものにお金を払って、その作り手を大切にするって大事なことだと思います。いろいろプロの現場でちゃんと仕事をしている人を尊敬して、お互いの仕事に敬意を払うことが、回り回って自分を豊かにするんですよ。

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン