国際情報

中国10万人サイバーポリスも限界 自動検閲システム実用段階

 中国広東省の週刊紙『南方週末』(1月3日発売の新年号)の社説が、広東省共産党委員会宣伝部の検閲によって改竄された問題により、中国の言論統制はますます強まる方向に向かうと見られている。

 事実、ネット言論規制は、『南方週末』事件を通じても徹底していた。当局の指導で100人以上の「微博」が閉鎖され、利用者が書き込むと自動的に削除される単語に「南方」「週末」などが追加された。すでに10万件以上の書き込みが削除されたともいわれている。

 中国におけるネット規制の実態について、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院の渡邉浩平教授はこう語る。

「ネット規制は、検索の制限と書き込みの削除に分けられる。検索では『敏感語』と称する単語を含むサイトを、検索しても出さないようにし、政府にとって好ましくないサイトを閲覧できなくする。

 建前はプロバイダーによる“自主規制”だが、実際には規制が徹底されていて、例えば高速鉄道事故の後にはプロバイダー各社の社長を集め、数日間の講習会を実施し、『敏感語』への対応を徹底させるよう圧力をかけた」

 削除に関しては、「六四天安門事件(天安門事件を中国ではこう呼ぶ)」「ダライ・ラマ」など特定のキーワードを自動的に削除するプログラムシステムが存在するとされる。加えて、“抜け道”を塞ぐために人海戦術もとられているようだ。

「10万人規模の“サイバーポリス”が存在しているといわれ、公安部だけでなく人民解放軍総参謀部などでも配備されている。中国の公安部は1000万人規模で、しかも中国は国防費以上に治安に予算を多くかけている。ネット対策にそれだけの人員を割いていても不思議はない」(中国問題に詳しいジャーナリストの相馬勝氏)

 とはいえ人海戦術にも限界はある。そこで中国政府が力を注いできたのが、『金盾』と呼ばれるコンピュータによる自動検閲シテスムの開発だ。サイバーセキュリティ研究所の伊東寛所長が語る。

「政府にとって都合の悪い言葉を自動的に探し出して、オペレーターに示すシステムのことです。しかし、当初は効率が悪かった。そこで政府は中国に進出したグーグルに協力を求めた可能性も考えられるが、グーグルは政府によるネット監視に利用されることを潔しとせず、中国から撤退した。

 しかしその後、中国は自力でこの検索=検閲システムを完成させたと見られます。事実、一昨年の反日暴動ではネットでも反日的な書き込みが横行しましたが、昨年の反日暴動の後はほとんど書き込みがなく、『書き込みと同時にどんどん消されていった』といいます。つまり、昨年の段階で、金盾計画が実用化段階に達したと考えられる」

 中国では個人のSNS利用が5億人規模に拡大しているが、それだけの情報をコンピュータで自動的に検閲できるとしたら、恐ろしい話である。

 世界第2位の経済大国は、その経済力とコンピュータ技術を惜しげもなく投下して、言論統制につぎ込んでいる。

※週刊ポスト2013年2月1日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン