国内

大前研一氏 原発の「ストレステスト」は無意味だとバッサリ

 東日本大震災による東京電力・福島第一原子力発電所事故のあと、日本はすべての原発を止めた。ところが、かつて原発事故が起きた後、すべての原発を止めた国は日本以外になかった。2年たった今も、原発再稼働について曖昧な議論しかできない日本の現状を、大前研一氏が解説する。

 * * *
 実は今も福島第一原発は危険な状態が続いている。マスコミなどは一時期、原子炉が「冷温停止」したか否かということに異常なまでに固執したが、冷温停止は原子炉がある時に重要なことで、今回のようにメルトダウン(炉心溶融)やメルトスルー(溶融した燃料が圧力容器・格納機外に漏出)してしまったら、いくら水を注入しても燃料はなかなか冷えないから、冷温停止に意味はない。ここでも、科学的・技術的に冷静な議論がなされていないのだ。

 さらには一時、国が原発再稼働の条件にした「ストレステスト」も無意味だった。私は震災直後から、コンピューター上でのシミュレーションにすぎないストレステストではなく、福島第一原発事故の技術的な検証こそ再稼働の条件だと主張していたが、政府もマスコミもストレステストの合否にばかり関心を寄せていた。

 結局、これまでにテストを実施した原発はすべて合格しているにもかかわらず、大飯原発以外は再稼働には至っていないし、誰もその“妄想”に振り回されたことを反省していない。

 浜岡原発も、当時の菅直人首相が「東海大地震が起きる可能性が85%ある」という理由で停止を命じたが、地震を「予知」することは、現状では極めて難しい。

 実際、阪神・淡路大震災から東日本大震災まで、ここ18年間に起きた大地震はいずれも全く予知できていない。だから「日本地震学会」は学会内部に設置している「地震予知検討委員会」の名称を変えるという方針を打ち出し、国の「地震予知連絡会」は会の名称だけでなく、その役割についても再検討することになった。つまり、浜岡原発を止めた判断の前提が崩れているのに、誰もそれを見直そうとはしていないのである。

 議論を積み重ねることもせず、科学的・技術的・論理的思考のかけらもない政策がまかり通るフシギの国――それが今の日本なのだ。

※週刊ポスト2013年2月1日号

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン