そうやって飛び込んだ店内には、よけいな飾りもないし、たった一つだけある窓を開けても、絵になりそうな港も船も見えない。酒以外にそこにあるのは、缶詰類に乾き物のつまみ、そして前の店で使っていたデコラ製、旧包装台、3段重ねのビールケースという、3種類3台のカウンターだけだ。それでも、毎晩多くのファンが足を運ぶ。
「料理を出すわけじゃないんで、その分缶詰には凝っているんです」と、高野さんは言うが、なるほど、アラスカ産紅鮭、まぐろステーキ、紅ずわいがにほぐし身等、珍味系が250円から600円で勢ぞろいしている。
「でも、それだけじゃない。ソーセージ缶だったら、炙って脂を落としたうえで、醤油をたらしてくれる。コンビーフなら、皿にほぐして、刻みきゅうりにマヨネーズで出してくれる。お母さんも浩さんも、缶詰に心をそえてくれるんですよ。泣けますね」(50代印刷業)