スポーツ

止まるのが嫌いな王貞治氏 信号が赤だと脇道に入る運転ぶり

 かつてのプロ野球界を彩った大スターに秘められた裏話を、スポーツライターの永谷修氏が綴るこのコーナー。今回は、王貞治氏のエピソードを紹介する。

 * * *
 王貞治がハンク・アーロンの本塁打記録を抜き、国民栄誉賞を獲得した直後、自宅を訪れて写真を撮らせてもらったことがある。現在のように球団の広報体制が整っていなかった77年頃のこと。王本人に直接、“球団には写真の許可はもらっていますが、ご自宅ででもいいですか”と聞いたら、「これから1時間ほど用事があるから、先に自宅で待っていて」 と、二つ返事で許可をくれた。

 自宅のグローブ型のソファに座った貴重な写真。しかしその後、私は巨人からしばらく出入り禁止の措置を受けた。実は当時、自宅での撮影は禁止されていたのである(ペン取材はOK)。多分それは王も百も承知のことだっただろうが、王の家にはいつも新聞記者が詰めかけており、他の記者と同じことをやっても仕事にならないだろうと、弱者の味方をしてくれたのだと思う。

 王は自宅から愛車で球場に通っていた。取材に来ていた顔なじみの番記者何人かには、「一緒に乗っていかないか」と言うことがあり、同乗していくのを見ていたが、ある時、私にも声がかかった。「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」ではないが、王の家を訪れる度、3人の娘さん用に当時流行っていたサンリオのグッズを持って行ったのが功を奏したか、と思ったが違った。「新聞記者と一緒だとあれこれあるからね」とキチンと区別をして、誰も来ていないときに乗せてくれたのだった。

 何度か同乗を許された車での王は、ともかく止まるのが嫌いだった。目黒の自宅から後楽園への道すがら、次の信号が赤であることを見定めると、すぐに脇道に入り、球場までをノンストップで走っていく。

「僕は立ち止まるのが大嫌いなんでね」

 と、王は涼しい顔で言ったが、普段接する時の柔和な表情の陰に、秘めたものがあるから、大記録は生まれると感じたものだ。

■ながたに・おさむ/1946年、東京都生まれ。著書に『監督論』(廣済堂文庫)、『佐藤義則 一流の育て方』(徳間書店)ほか。

※週刊ポスト2013年6月7日号

関連記事

トピックス

長男・泰介君の誕生日祝い
妻と子供3人を失った警察官・大間圭介さん「『純烈』さんに憧れて…」始めたギター弾き語り「後悔のないように生きたい」考え始めた家族の三回忌【能登半島地震から2年】
NEWSポストセブン
古谷敏氏(左)と藤岡弘、氏による二大ヒーロー夢の初対談
【二大ヒーロー夢の初対談】60周年ウルトラマン&55周年仮面ライダー、古谷敏と藤岡弘、が明かす秘話 「それぞれの生みの親が僕たちへ語りかけてくれた言葉が、ここまで導いてくれた」
週刊ポスト
小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン