スポーツ

元近鉄の仲根正広 猫のニャン太捨てさせられ打者転向決意

 スポーツライターの永谷脩氏が往年のプロ野球名選手のエピソードを紹介するこのコーナー。今回は、元近鉄バファローズの中根正広選手についてだ。

 * * *
「主人の野球カードができました」と、仲根正広の妻・千恵子さんから、手紙が送られてきた。仲根が40歳で急逝してから、18年目の命日のことだった。

 仲根は日大櫻丘のエースとして1972年のセンバツで優勝、ドラフト1位で近鉄に入団した。193cmの長身から仇名は“ジャンボ”。今でこそ大谷翔平(日本ハム)、藤浪晋太郎(阪神)ら190cmを超える大型投手は珍しくないが、当時は「190cm超の投手は大成しない」といわれた時代。それに加え、投手としては優しすぎる性格から「打者の胸元を突けない」と指摘され、二軍暮らしが続いた。

 打者に転向するか真剣に悩んでいたある雨の日の夜、夫婦で出かけた帰り道、ジャンボは高速道路の高架の下で、びしょ濡れになって鳴いている子猫を発見した。「俺と一緒で路頭に迷っているな」と思った心優しいジャンボは不憫に思い、家に連れて帰る。子猫には「ニャン太」と名付けて可愛がった。

 だがジャンボのアパートでは動物を飼うことは禁止。仕方なく内緒で飼っていた。練習が終わって夕暮れに家に着くと、ニャン太はジャンボを迎えに出てきた。その日も足音を聞いたニャン太は勢いよく飛び出した。だが、そこに待っていたのはジャンボではなく大家だった。

「すぐに捨ててきなさい」と怒鳴られたジャンボは、大きな体を小さく丸めて謝ったが、許してもらえなかった。仕方なく、夫婦はニャン太をタオルを敷いたカゴの中に入れ、泣く泣く高速道路下の拾った場所に向かう。この時、飼えない理由を書いた手紙と、牛乳代として3000円を入れた封筒を入れておいた。

 別れ際、何度も何度も頭を下げて謝るジャンボ。立ち去ろうとする時、ニャン太が一声、大きく鳴いたという。その声が、16年間の現役を引退するまで、耳について離れなかった。この時、ジャンボは千恵子さんに、「一本立ちして、動物が飼える家を買う」と約束した。

 これがきっかけとなり、プロでの投手生活に別れを告げることを決心。西本幸雄監督の下で猛練習を重ねた。上背があるだけに飛距離が出る。大物の片鱗を見せたのは1983年。106試合に出場し14本の本塁打を記録、1985年にはプロ野球通算5万号本塁打を放った。「もっと早く打者に転向していたら、すごい打者になったのに」と言った、西本の顔が懐かしく思い出される。

 プロ入り13年目、ジャンボから届いた住所変更を知らせる手紙には、「今度は動物が飼えます」とあった。

※週刊ポスト2013年7月19・26日号

関連記事

トピックス

12月中旬にSNSで拡散された、秋篠宮さまのお姿を捉えた動画が波紋を広げている(時事通信フォト)
《識者が“皇族の喫煙事情”に言及》「普段の生活でタバコを吸われる場合は…」秋篠宮さまの“車内モクモク”動画に飛び交う疑問
NEWSポストセブン
小室さん眞子さんのNY生活を支える人物が外務大臣表彰
《小室眞子さん“美術の仕事”の夢が再燃》元プリンセスの立場を生かせる部署も…“超ホワイト”なメトロポリタン美術館就職への道
NEWSポストセブン
今年成年式を終えられた悠仁さま(2025年9月、東京・港区。撮影/JMPA) 
《自らモップがけも…》悠仁さまが筑波大バドミントンサークルで「特別扱いされない」実情 「ひっさー」と呼ばれる“フラットな関係”
週刊ポスト
結婚を発表した長澤まさみ(時事通信フォト)
《トップ女優・長澤まさみの結婚相手は斎藤工と旧知の仲で…》インスタ全削除の“意味深タイミング”
NEWSポストセブン
長男・泰介君の誕生日祝い
妻と子供3人を失った警察官・大間圭介さん「『純烈』さんに憧れて…」始めたギター弾き語り「後悔のないように生きたい」考え始めた家族の三回忌【能登半島地震から2年】
NEWSポストセブン
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「クマが人里に降りてくるのは必然」「農業は野生動物に対する壮大な餌付け」 知床・ロシアでヒグマを撮った動物写真家が語る “現代の人間に欠けている自然観”
NEWSポストセブン
11人家族の宮前家
《子ども9人“大家族のパン屋さん”》「店員さんが注文を覚えきれなくて(笑)」11人家族のインフレ“金銭事情”と、大人数子育てで培ったこと「マニュアル本は役に立たない」
NEWSポストセブン
インフルエンサーのぴきちんさん(Instagramより)
《2年連続ポストシーズン全試合現地観戦》大谷翔平の熱狂的ファン・ぴきちん、全米巡る“体力勝負”の脅威の追っかけはなぜ可能なのか
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン