国内

落合信彦氏 「靖国は故人の功績称える場として制約多すぎ」

 今年の終戦記念日は、安倍晋三首相は靖国神社の参拝を見送ったが、閣僚3人が予定通りに参拝を行ったことで、やはり中国や韓国から反発の声が上がった。改めて靖国参拝の意味について、作家の落合信彦氏が解説する。

 * * *
 8月15日は今年も非常に騒々しい一日だった。靖國神社の周辺ではデモ行進や署名活動が繰り広げられた。日の丸を掲げる集団から天皇制廃止を叫ぶ者までその主張は様々だが、こうした光景を目にするとつくづく日本人はまだ子供だと思ってしまう。

 終戦記念日の直前まで、私はアメリカの東海岸を訪れていた。目的の一つは、ワシントンDCから川を渡ってすぐの場所に位置するアーリントン国立墓地を訪ねることだった。アーリントンには戦死した兵士、無名戦死者、政府高官など約6万人が埋葬されている。

 アーリントンは、幕末から第二次世界大戦に至るまでの戦没者の霊を祀った日本の靖國神社と比較して語られることがある。首相の安倍は以前、

「日本人が靖國神社に参拝することと、アメリカ人がアーリントン墓地に行くことは同じだ」

 と発言したことがあった。しかし、今回久しぶりに現地を訪れて改めてわかったが、アーリントンと靖國はまったく違う。

 アーリントンを含めたアメリカの国立墓地には、戦没者や一定の軍務を果たした退役軍人、政府機関の幹部が埋葬される権利を持つ。ただし、そこに埋葬されることを選ぶかどうかは個人の自由だ。本人の生前の意思や遺された家族の希望が尊重される。

 軍の最高司令官であるアメリカ合衆国大統領は当然、埋葬される権利を持つが、歴代大統領で実際にアーリントンに墓石があるのはジョン・F・ケネディを含めて2人だけだ。

 埋葬されるかどうかも、参拝するかどうかも、個人の自由が最大限に尊重される。それに比べると、戦没者の霊がすべて祀られているという靖國神社の在り方はどうにも窮屈に感じられる。

 しかも、戦没者であれば全員が祀られるというが、明治維新の立役者である西郷隆盛の霊は祀られていない。西南戦争で政府に叛旗を翻し、反乱軍として敗れたからだとされている。

 アーリントンにはアメリカ史上最大の戦死者を出した内戦である南北戦争で敗れた南軍の兵士の遺骨も埋葬されている。南軍の兵士であろうが北軍の兵士であろうが、現在のアメリカに至る過程で生まれた尊い犠牲であることに変わりはないと考えるからだ。

 また、靖國には戦争で功績を挙げて生き残り、平和が訪れた後に死んだ者の霊は祀られない。アメリカの国立墓地ではすべての宗教が認められている点も、神社である靖國とまったく違う。

 純粋に故人の功績を称え、その死を悼む場所としては、靖國には制約が多すぎるように思えてならない。

 ワシントンの街並みを一望できる丘の上にある無名戦士の墓に手を合わせた後、私はなんともすがすがしい気持ちになった。それはアーリントンが非常にクリーンでオープンであり、そして静かな場所だからだろう。

※SAPIO2013年10月号

トピックス

『マモ』の愛称で知られる声優・宮野真守。「劇団ひまわり」が6月8日、退団を伝えた(本人SNSより)
《誕生日に発表》俳優・宮野真守が30年以上在籍の「劇団ひまわり」を退団、運営が契約満了伝える
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト