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松中、福留、金本らプロ野球「逆シリーズ男」が生まれる理由

 プロ野球のCS(クライマックスシリーズ)や日本シリーズを勝ち抜いたチームには、期待以上の成績を上げる「シリーズ男」と呼ばれる選手が必ず登場するが、これとは反対に、“戦犯”として敗北の責任を背負われるのが「逆シリーズ男」だ。今年、その汚名を着せられるのは誰になるのか。

 まだ日本シリーズ出場チームは決まっていないため、可能性のある6チームを対象に検証。過去に行なわれた日本シリーズを中心に見ていくと、ある共通点が浮かび上がってきた。

 レギュラーシーズン中の活躍の度合いが大きく、中でも何かのタイトルを獲得した選手ほど、ポストシーズンで失速することが多い。相手の執拗なマークに遭う(注目される)という側面もあるだろうが、それを差し引いても、ブレーキのかかり具合が顕著となる。この典型例がソフトバンクの松中信彦だ。

 プレーオフが導入された2004年(当時はダイエー)、松中は三冠王を獲得する大活躍を見せた。しかし肝心のプレーオフでは、5試合でたった2安打。続く2005年も、本塁打王(2年連続)、打点王(3年連続)を獲得しながら、プレーオフでは1安打だった。

「秋になると急に不調になる主砲に合わせるかの如く、チームもこの後、毎年のようにプレーオフ、CSで敗退を繰り返すことになる。ファンからは自虐もこめて、“秋の風物詩”と揶揄されています」(ソフトバンク担当記者)

 タイトルホルダーの不調は、日本シリーズで特に起こりやすい。例えば、2006年の中日・福留孝介。このシーズン、福留は12球団最高の打率.351で首位打者を獲得し、出塁率、長打率ともにリーグ1位だったが、日本ハムとの日本シリーズでは打率.200と大ブレーキ。1勝4敗で日本一を逃す。

 2005年は阪神の金本知憲、今岡誠。打率.327(40本)でセMVPに輝いた金本は.077(0本)、147打点で打点王に輝いた今岡はたった1打点。この年はロッテとの決戦だったが、主軸2人の不振が響き、阪神は4試合で合計4点しか取れず(ロッテは33得点)、あっけなく4連敗を喫した。

 投手では、昨年の日本ハム・吉川光夫が挙げられる。最優秀防御率(1.71)でパMVPを獲得したが、巨人打線を相手に大炎上。0勝2敗、防御率12.15という成績が残る。20勝投手でも安心はできない。2003年の阪神・井川慶は、20勝5敗の最多勝、最優秀防御率(2.80)でセMVPだったが、ダイエーとの日本シリーズでは2試合で防御率5.40と“戦犯”になってしまった。

 なぜタイトルを獲得するほど実力ある選手が急に不振に陥るのか。スポーツライターの永谷脩氏は、「初打席、初登板の難しさ」を挙げる。

「タイトルを獲得するような主軸選手にとって、大舞台で迎える初めての打席・マウンドでの失敗が、取り返しのつかない低迷に繋がる。他の選手よりもマークされていることがわかる分、“相手はこれだけ自分を研究してきているのか”などと疑心暗鬼に陥りやすいのです。1995年、野村ヤクルトとの日本シリーズで逆シリーズ男になったオリックスのイチローがいい例ですね」

 第1戦の初打席、初球。先発・ブロスが投じた内角高めの球を見たイチローは、「野村ID野球は自分を完全に丸裸にしている」と感じ、リズムを狂わされた。内角高めは、当時のイチローが最も苦手にしていたコースだったからだ。それ以降のイチローは、「ならば高めも打ってやる」とムキになってバットを振り回し大ブレーキとなった。あの天才打者ですら、出鼻をくじかれると大コケするのである。

「2002年の西武・和田一浩も同じ。初戦、得意のセンター返しで抜けたと思った打球が、仁志敏久の好守に阻まれてから、スイングがおかしくなっていきました」(永谷氏)

※週刊ポスト2013年10月25日号

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