芸能

藤圭子「あたしの胸がときめいてしまったら、それで終わり」

【書評】『流星ひとつ』沢木耕太郎著/新潮社/1575円(税込)

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 * * *
 1979年秋、引退発表直後の藤圭子を若き気鋭のノンフィクション作家だった著者がインタビューした。それをもとに当時書いたのが本書だ。一切の地の文を排除し、2人の会話だけで構成している。といっても、実際のやりとりをそのまま再現するのではなく、かなりの取捨選択、再構成を行なったはずだ。酒場での会話の体裁を取り、男女の関係になってもおかしくない空気すら漂う。そのスタイルと雰囲気が面白い。

 具体的な経緯は本書の「後記」に譲るが、作品は一度も発表されることなくお蔵入りしていた。だが、自死をきっかけに、奇矯な言動の映像ばかりが流される中、若い頃の藤圭子が〈輝くような精神の持ち主〉だったことを伝えたい思いから刊行が決まったという。

 貧しさと父の暴力に苦しんだ少女時代に始まり、「自分と似ている」と感じた作詞家石坂まさをとの複雑な関係、「時代の歌姫」となっていく経緯、前川清との結婚・離婚、その後の失敗続きの男関係、そして歌への思いと引退の真相(そこが白眉である)に至るまで、内容は多岐に渡る。率直な語りから浮かび上がってくるのは、藤圭子の純粋さである。

〈心の入らない言葉をしゃべるのって、あたし、嫌い〉〈嘘をつきたくないから、いつでも本当のことを言ってきた〉〈周囲の人が、あの人はよくない、悪人だって言っても、あたしの胸がときめいてしまったら、それで終わり〉……。

 現実に婚約していながら、惚れた男から身を引く女の歌はうたえないといって、与えられた曲を拒否したこともあった。

 その純粋さは、裏返せば不器用さであり、危うさであったが、それがなおさら彼女の魅力を増したことが伝わってくる。

※SAPIO2013年12月号

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン