大島渚監督まではなんとかなったが、あとはどんどん芸術映画を作った。芸術映画も結構ですよ。『舟を編む』本当に地味ですが、いい映画なんです。あれこそ芸術。奥田瑛二の『今日子と修一の場合』も実にリアルでいい話なんです。まさしく芸術映画、そらぞらしくない。客も入りません。

 娯楽映画がたくさんあって、たまにああいう映画がある。これが日本映画の良心です。山田洋次とはえらい違いだ。

『武士の一分』なんて作って〈一分〉を描かない。反対に、武士はだらしないという映画にする。娯楽映画でも芸術映画でもない。なんだろ、あれは。

 しかしまあいま、娯楽映画といえばテレビ局のつくる紙芝居。『テルマエ・ロマエ』を筆頭に、あれは映画ではない。紙芝居。なぜか。テレビの演出家が映画、ドラマを勉強していない。起承転結、ドラマチック、キャラクターづくり。最初の掴み、終わりよければすべて良しとかね。テーマも鮮明でない。要するにストーリーだけで運ぶ。

 牧野省三が映画について〈1・すじ、2・ぬけ、3・動作〉といった。すじは、脚本、ストーリー、ぬけは、キャメラや現像、撮影のこと。動作は役者の芝居です。そして長男のマキノ雅弘はこういった。「30%やぞ」と。

〈30%〉とは何か。映画は目で見る。見える部分は〈30%〉にしておけ。70%は観客の想像力を喚起させよと。想像できる内容ですよね。それがないと映画にはならんと深い所を突いているんです。

 ものは、見るだけでは頭脳を発達させない。読むことこそ、想像力を働かさせる。映画に必要なものはこの想像力だと。だから、見させるだけで終わるのはテレビです。その昔は紙芝居だった。同じ類いのものですね。

 マキノ一統は、見えるものだけで勝負したらだめだぞ、といってきたわけです。筋はおもしろおかしくつないでいくが、見た後で、残るものがない。見えていなかったものこそが実は残るんですよ。

 ところが、観客のほとんどはテレビで脳みそを薄くされ、30%で満足している。テレビに飼いならされた大衆だ。そこで、日本の映画はどんどん衰退したんです。

※週刊ポスト2014年1月17 日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン