もう1つの値上げ理由は、少人数授業などきめ細やかな教育体制の充実のために必要だという件。これはたしかに、そうなのだろう。ここ10年ほどの間に、「1年次からゼミをやる」というような大学や学部がずいぶん増えた。大教室での老教授による棒読み講義が減り、グループディスカッションをやる授業や、文系でも実習的な色彩の強い授業が増えている。さんざん批判されてきた「マスプロ教育」は減少方向にある。

 学生個人によりきめ細やかな対応をする教育の実践には、当然、人件費が余計にかかる。大学側からしたら1単位あたりの利益率が減るので、学費そのものを上げざるをえないわけだ。

 しかし、である。そのような教育体制に力を入れ始めてしばらく経つが、成果のほどはいかがか。これはデータでなかなか示せない問題だが、大学生や若手社員を取材していて、「大学の勉強は?」と聞いても、「べつに関係ないですよ」という返答が圧倒的に多いのは昔も今も変わらない。むしろ、きめ細やかになったことで、出欠取りが厳しくなり、「意欲もないのに」授業に出る学生が増えている。これは多くの大学教員もぼやいている件だ。

 もちろん、こうした状況について、今はマスプロ教育から少人数教育への過渡期でいずれ内実のともなった大学教育が実現する、という見方もできよう。だが、話が戻るけれども、そのぶん学費値上げは必至なわけだ。

 文部科学省の平成23年度データによると、私立大文系の授業料の平均額は743,699円で、入学料などを含めた初年度納付金の平均額は1,155,405円だ。理系の場合は、授業料が1,040,472円、初年度納付金が1,497,747円。今回の値上げラッシュで、これらの数字はもっと跳ね上がる。

 コストに見合ったリターンという考え方は教育に当てはめるべきではないかもしれないが、これだけの大枚をはたく価値のある大学教育は本当に必要なのか。大学で職を得ている人以外の誰がその価値を求めているのか。逆に学費を下げられるのなら、むしろ昔流のマスプロ教育を増やして、あとは学生の自主性に任せる、といった大学が出て来たっていいのではないか。具体的にかかる金額を見つめていると、そんなことも考えてしまう。

 いまや同学年の半分が大学に進学する時代。でも、この「常識」だって崩れていくかもしれない。あまり注目されていないのだが、大学進学率は2009年に50%超えして以降、2011年の51・0%がピークで、そこからは下がっている。2012年は50.8%で、2013年は49.9%と、実は僅かながら半分を割っている。

 大学進学率の「頭打ち」の原因が、高卒就職率が改善しているせいなのか、なんなのか、明言できている識者はいない。けれどもこれは単純に、親の懐具合が限界に来た、ということなのではないだろうか。

 ちなみに、これもいまひとつ認識されていない話だからつけ加えておく。国立大学の学費である。上記と同じ平成23年度データでは、授業料は535,800円、初年度納付金は817,800 円。こと文系学部に関してなら、私大とものすごい差があるわけではない。貧乏なうちの子が頑張って国立に合格しても、けっこうなお金がなければ通えない。受験生の親が若かった頃とはまるで状況が異なることを、知っておいたほうがいい。

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