――中国では本が売れないのですか?
井上:中国人は基本的に本を読まないですよ。たとえば2012 年に莫言がノーベル賞を受賞したとき、受賞後の最新刊が20 万部と聞いてずっこけた覚えがあります。日本の10 倍人がいるのに! 海賊版が多く、ほぼネットで読めるから本が売れないと言われています。
この話題は中国人自身がとても気にしているようです。以前に見たテレビ番組は、中国人は平均して3~4 冊しか本を読まないという調査結果に対し、中国の識者が「それは違う。26 歳までの低年齢に絞れば6~8 冊だ!」と反論する内容でした。でも、漫画も雑誌も含めているそうなので、この数字でもかなり絶望的です。さらに月が「コレ、きと教科書入れてマスヨ」って(笑)
文章はほとんどネットで読んでいるのでしょう。本屋もありますが大都市にしかなく高価です。たくさん本を読む人と、まったく読まない人の差が激しいんです。
――中国は映画やアニメを輸出することを考えているのでしょうか?
井上:ないですね。そういう点ではアメリカと中国は非常によく似ていて、自国のことしか見ていない。自国の人間がどう思うかが重要で海外はどうでもいい。
中国共産党は、本当は尖閣諸島なんかどうでもいいと思っているんじゃないかと僕は疑っています。国威高揚になるからこだわるだけで。日本に弱みを見せて「共産党もっとしっかりやれ!」とデモが起こるのが怖い。面白いのですが、同時に「日本をやっつけろ!」とデモが起こるのも怖いんです。反日と抗日のどちらでも、とにかくデモは潰す。人民が政府の思惑と関係なく、一致団結して行動するのが怖い。
――中国は一体感を保つのが難しいですね。
井上:本来は、分裂の危機はどこにでもあると思います。私が住む東莞は広東語を話し、中国の共通語、北京語と比べるとほぼ外国語で違う民族です。それを漢民族だということにしてしまう。本当はもっと細かく分けられるのに、少しでも漢族の血が混じると漢民族にして、中国のほとんどの人間を漢民族にしてしまっている。
そこでプロパガンダがとても重要になる。テレビでは「中国の夢。私の夢」という言葉が何度も繰り返されます。国家の夢はあなたの夢だと言い続け、「漢民族」という概念に疑問を持たれぬよう、国はあなたであり、あなたは中国と不可分だと言い聞かせ続けなければならない。自分の印象ではこのプロパガンダはかなりうまくいっていると思います。ウイグルなど一部地域を除くと、かなり浸透して人心を安定させているようです。
――日本の景気は回復基調だと言われていますが、仕事の上で感じる部分はありますか?
井上:少し感じますね。フィギュアが少し売れるようになった。でも、本当に好景気になるとフィギュアは売り上げが下がるんですよ。
ホビー業界が伸びたのはバブルのあと、みんながお金を小さいものに使い始めて伸びました。だから不況に強いというより、ちょっと回復したくらいがちょうどいい。極端な言い方をすれば、景気がよくなりすぎるとフィギュアを買ってた人たちがスキーに行っちゃう(笑)。金がまわりはじめると、本当にリア充になろうとするんじゃないですか。でも、本などは好景気のときのほうが売れると思いますよ。
■井上純一(いのうえじゅんいち)1970 年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。40 歳で結婚した20 代の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログを書籍化し累計65 万部を超えるベストセラーに。2012 年4 月から広東省東莞市在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』3 巻(KADOKAWA エンターブレイン)。