ライフ

「自殺」と「統合失調症」を明るくイベントで語り合った結果

 夜の池袋に降り立つ3人の男。編集者の末井昭氏と芸人・ハウス加賀谷である。2013年下半期にインパクトある著者を現した男たちの熱く、優しいトークイベントでなにがあったのか。コラムニストのオバタカズユキ氏がレポートする。

 * * *
 3月24日の午後7時から、東京の大型書店リブロ池袋本店が、今の日本で最もインパクトのある組み合わせのトークイベントを開催した。

『自殺』の著者・末井昭と、『統合失調症がやってきた』の著者・松本ハウス(ハウス加賀谷&松本キック)というマッチングである。夜の池袋に公然と、自殺と統合失調症がやってきた、わけだ。

 こんなにネガティブなイメージのお題を掛け合わせたら、いったいどんな話が展開し、どういう会場の雰囲気になるのか。私も興味津々で、観戦に行った。

 それぞれの本については、このコラムは書評じゃないので、ごく簡単な紹介に止めておく。

『自殺』は、雑誌の『写真時代』や『パチンコ必勝ガイド』の元編集長として数々の伝説がある末井昭によるエッセイ集。少年期に母親がダイナマイト心中をしたという話を手始めに、いじめられ体験、ギャンブル依存、不倫相手の自殺未遂など、末井氏自身やその関係者の破茶滅茶な人生を綴っている。青木ヶ原樹海のミニルポや自殺未遂経験者の作家インタビューなども掲載。

 対して『統合失調症がやってきた』は、「か・が・や・で~す!」の挨拶ギャグで知られるハウス加賀谷が統合失調症という精神疾患と共に歩んできた半生を記したもの。病気の悪化によって約10年間の活動休止を余儀なくされていたお笑いコンビの松本ハウスが復活するまでの軌跡を、相方・松本キックの視点を交えて明かしたノンフィクションだ。

 2冊の本とも2013年の下半期に刊行されて大きな話題を呼んだ。読書通が何人も「名著」として挙げ、今もなおロングセラーとして売れ続けている。

 で、そんな2冊の著者たちによるトークイベントはどうなったか。暗くて危なくてネガティブな話が続く重苦しい時間だった?

 いや、その正反対だったのである。約1時間半のフリートークで、5分に1回は笑いが起きた。それもお笑い芸人である松本ハウスの話術による爆笑というより、クスクス、ウフフ、ハハハといった自然発生的な笑いがほとんど。演壇の3人も終始楽しそうで、彼らの発するやわらかな空気が、ほぼ満席の会場を包みこんでいた。

 トーク自体は、例えば、こんなやりとりだ。

キック:本を読んで感じる、末井さんの優しさというか、なんでも受けて入れているじゃないですか。それはどこから来ているのですか?
末井:あー。
加賀谷:末井さん、僕も共通点があるんです。いい人ぶっちゃうんですよ。周りの中ですいすいとやっていき、自分が楽をするために。末井さんの場合も、そういう延長かなと感じました。
末井:それはありますね。優柔不断、よく思われたい、自分を好きな人は嫌いにしない。そうしたものが固まって、いい人みたいになっちゃっているのかな。でも、ホントはいい人じゃないですよ、僕は。
加賀谷:そういう決めセリフも僕と一緒ですね(笑)。
末井:最近、『自殺』を書いて、いい人に思われているんじゃないかっていう恐怖心があるんです。だって、自分にはそうじゃない、すごくいやらしいところとか、汚いところもあるから。

 たくさんの観客を前に、まるで飾らないトークなのである。過激な発言もいろいろ飛び出したが、それらも露悪的にウケを狙うのでなく自然体。いろんな過去があって、今も世間サマから見たら決して楽な生活をしているわけではない3人が、居酒屋で「だよねーだよねー」と自殺や精神疾患の話で頷き合うみたいな。これが初対面同士とは信じがたい波長の合い方だった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米野球記者協会ニューヨーク支部主催のアワードディナーに出席した大谷翔平と、妻・真美子さん(左/時事通信フォト、右/提供:soya0801_mlb)
《真美子さんが座る椅子の背もたれに腕を回し…》大谷翔平が信頼して妻を託す“日系通訳”の素性 “VIPルーム観戦にも同席”“距離が近い”
NEWSポストセブン
司法省がアンドリュー元王子の写真を公開した(写真/Getty Images)
《白シャツ女性に覆いかぶさるように…》エプスタイン・ファイルで新公開されたアンドリュー元王子とみられる人物の“近すぎる距離感の写真” 女性の体を触るカットも
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
【2・8総選挙「大阪1〜10区」の最新情勢】維新離党の前職が出た2区、維新前職vs自民元職vs野党候補の5区で「公明党票」はどう動くか
NEWSポストセブン
なぜ実の姉を自宅で監禁できたのか──
《“お前の足を切って渡すから足を出せ”50代姉を監禁・暴行》「インターホンを押しても出ない」「高級外車が2台」市川陽崇・奈美容疑者夫妻 “恐怖の二世帯住宅”への近隣証言
NEWSポストセブン
東京拘置所(時事通信フォト)
〈今年も一年、生きのびることができました〉前橋スナック銃乱射・小日向将人死刑囚が見せていた最後の姿「顔が腫れぼったく、精神も肉体もボロボロ」《死刑確定後16年で獄中死》
NEWSポストセブン
間違いだらけの議事録は「AIのせい」(写真提供/イメージマート)
《何でもAIに頼る人たち》会社員女性が告白「ケンカの後、彼から送られてきた”彼女の方が悪い”とAIが回答したスクショ」ほどなく破局
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
国際ジャーナリスト・落合信彦氏が予見していた「アメリカが世界の警察官をやめる」「プーチン大統領暴走」の時代 世界の“悪夢”をここまで見通していた
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト、2025年10月15日)
《頬がこけているようにも見える》高市早苗首相、働きぶりに心配の声「“休むのは甘え”のような感覚が拭えないのでは」【「働いて働いて」のルーツは元警察官の母親】 
NEWSポストセブン
ジェンダーレスモデルの井手上漠(23)
井手上漠(23)が港区・六本木のラウンジ店に出勤して「役作り」の現在…事務所が明かしたプロ意識と切り開く新境地
NEWSポストセブン
元日に結婚を発表した女優の長澤まさみ(時事通信フォト)
長澤まさみ「カナダ同伴」を決断させた「大親友女優」の存在…『SHOGUN』監督夫との新婚生活は“最高の環境”
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
【訃報】国際ジャーナリスト・落合信彦氏が死去、84歳 独自の視点で国際政治・諜報の世界を活写 
NEWSポストセブン
薬物で急死した中国人インフルエンサー紅紅(左)と交際相手の林子晨容疑者(右)(インスタグラムより)
「口に靴下を詰め、カーテンで手を縛り付けて…」「意識不明の姿をハイ状態で撮影」中国人美女インフルエンサー(26)が薬物で急死、交際相手の男の“謎めいた行動”
NEWSポストセブン