日本でも社員の英語教育を強化する企業が増えているが、たとえば、「なぜ資料提出が遅れたのか、説明してください」と英語で言う時、どんなフレーズが思い浮かぶだろうか。「Explain to me ~」と思った人は、グローバルビジネスマンとしては失格だ。
監修者として新刊『大前研一の今日から使える英語』(小学館)を上梓したばかりの経営コンサルタント・大前研一氏は「和文英訳の考え方をしていると相手を怒らせることがある」と指摘する。以下、大前氏が解説する。
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2010年に楽天やファーストリテイリングが英語を社内公用語化する方針を打ち出して以降、社員の英語力を強化してグローバルな人材育成に力を入れる企業が増えている。
たとえば、三井住友銀行は2011年から総合職の全行員約1万3000人に対してTOEIC(990点満点)で800点以上を目指すよう求め、武田薬品工業も2013年4月入社の新卒採用から730点以上の取得(研究開発部門や管理部門などが対象)を義務づけた。サントリー食品インターナショナルも2013年、本社の全部署でTOEICの平均スコアを100点アップすることを目標にした英語力強化プロジェクトをスタートした。
今や多くの日本企業で英語力が入社や昇進の条件になっているわけだが、TOEICで高得点を取ったからといって、ビジネスの現場で英語でのコミュニケーションがうまくいくとは限らない。実際、TOEICで850点以上をマークしているのに、英語での交渉や商談に苦労して自信を失っている日本人ビジネスパーソンを、私はたくさん見てきた。
なぜ、そうなるのか? ほとんどの日本人が「和文英訳」で英語のフレーズを考えているからである。和文英訳の文章をビジネスの現場で使うと、真意が通じないどころか大失敗するケースも多い。ビジネス英語は学校で習う英語とは違うのだ。
わかりやすい例を挙げると、仕事が予定より遅れている部下や取引先に理由を尋ねる時、日本人は「Why ~」や「Explain to me」を使いがちだ。頭の中で「なぜ遅れたんですか」とか「説明してください」を和文英訳しただけで、そこまで怒っているわけではないつもりでも、これは英語としては「なぜなんだ!」と問い詰めているような“キツい表現”になる。相手が傷ついたり、気分を害したり、あるいは反発してやる気をなくしたり、嘘をついたりして、事態がこじれてしまうのだ。
その場合の英語の表現には、音楽の強弱記号にたとえればフォルテシモ(とても強く)からピアニシモ(とても弱く)まで幅広い言い方があるが、基本的には「自分」を主語にして言うのが“英語の礼儀”である。たとえば次のような具合である。