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中国の日本企業への嫌がらせ 撤退すら一筋縄ではいかぬ実情

 中国進出と同時に始まる日系企業への「嫌がらせ」に辟易し、撤退する企業が増えているが、共産党の御用メディアばかりのマスコミもまた、日系企業の難敵だ。

 黒龍江省ハルビン市が今年はじめ、市内のタクシーにトヨタ車を使用すると発表すると、人民日報系の自動車ニュースサイト「中国汽車報」が噛み付いた。

「釣魚島問題や靖国参拝に際して我々は日本製品ボイコットを行なってきた」「ハルビン市政府は民族としての尊厳を売り払うべきではない」。

 進出企業のコンサルティングを行なうなど中国ビジネスに詳しい高田拓氏が解説する。

「報道による日本叩きは日常的に行なわれています。メディアから日系企業に『おたくの批判記事を出しますよ』と連絡し、記事を掲載しない代わりに高額の広告掲載を求めてくる事例もあります」

 様々な嫌がらせに辟易し中国から撤退する日本企業は多い。高田氏が続ける。

「人件費や家賃の高騰、競争激化などにより収益が見込めなくなり、昨年末から今年にかけて日系企業の撤退や事業縮小が続いています。明治乳業の粉ミルク販売休止、ロート製薬の上海現地法人の解散、薬用化粧品ドクターシーラボの撤退、日本ガイシの中国生産子会社解散、イトーヨーカドー北京望京店の閉鎖などがそうです。撤退までしなくても、共産党政権による嫌がらせや日本商品不買運動が多くの企業に影響を与えていることは間違いない」

 しかし、撤退すら容易でないのが実情だ。日系企業は撤退しようとして突然課せられる“手切れ金”に悩まされることがある。税理士でコンサルタントの日上正之氏が解説する。

「広東省など地方都市では地元政府の権限が強く、『郷に入りては郷に従え』ということで独自の簡略化した納税方式をとらせ、一部では政府自らが脱税を容認してきた経緯がある。ところがいざ撤退となると突然手のひらを返し、『未払い分の税金と追徴課税を払え』と請求してくる場合がある」

 撤退時に数十億円の課税請求を受けた日系企業もあるという。中国当局はあの手この手で撤退を阻止しようとするため、工場を単なる倉庫として使って、事実上の休眠状態にしている会社は少なくない。

 中国人従業員を解雇する際の交渉も一筋縄ではいかない。従業員側は弁護士を連れてきて「あの時実は私は残業をしていた」などと言い張り、補償金を不正に吊り上げようとする。かつては給料の2週分くらい渡せば解雇できたが、今は6か月分が相場になっている。

 日本企業にとって、中国でのビジネスは進むも退くも困難な時代を迎えている。

■西谷格(在中国ジャーナリスト)と本誌取材班

※SAPIO2014年6月号

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