芸能

吉田鋼太郎 演じ分けの妙を感じさせる怪優は蜷川作品の常連

 いま、最も旬な役者といえば? 作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏は、意外な俳優の名を挙げた。

 * * *
 今春のドラマ「ロング・グッドバイ」(NHK)、「MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜~」(TBS)、「花子とアン」(NHK)、「トクボウ 警察庁特殊防犯課」(読売テレビ)。全部に顔を出している人といえば?

 そう、あの人。一度見たら忘れられない人。吉田鋼太郎さんです。

 ものすごい売れっ子状態。それができる、ということはつまり、的確な演じ分けができるという証拠でしょう。

 思い出すのは今から1年半ほど前の2013年冬ドラマ。深夜の「カラマーゾフの兄弟」(フジテレビ系)。「なんだこの人?」とぶっとびました。まさかここまで津々浦々にウケる役者さんとは、想像できませんでした。

 理由があります。

「カラマーゾフの兄弟」で演じた父・文蔵役が、あまりに怖すぎたから。ちょっと触ったらヤケドしそうな怪演ぶりだったから。目をむき、声を響かせ、汗が飛んできそう。アクが強すぎる。テレビの枠からはみ出している、というか。

 ざらざらしたノイズ、手触り感、カミソリのようなキレ、どっしりとした存在感。吉田さんの演技は、その意味でとっても「舞台的」でした。

 芝居好きの私としては、吉田さんのような役者さん、大好きなのですが、まさか、こうもお茶の間に浸透するとは。ちなみに「カラマーゾフの兄弟」の平均視聴率はたった6.3%でした。

「MOZU」の中で恐ろしいと話題の、吉田さん演じる中神というキャラは、あのカラマーゾフの文蔵役から出発して変化したバージョンのように私には思えます。

「カラマーゾフの兄弟」の後、吉田さんは快進撃を見せ「半沢直樹」「七つの会議」と立て続けに池井戸ドラマに登場。文蔵とは180度テイスト感の違う、サラリーマン姿が新鮮でした。

 そしていよいよ「朝ドラ」ときた。まさか、仲間由紀恵の夫になるとは……。こうなったらますます日本のドラマを深め成熟させる力強いエンジンになってほしい。

 ただ、老婆心ながら……短時間に一気にスターダムに駆け上がると、短期間のうちにメディアに消費され尽くされ飽きられ姿を消す、というのは定石。ひろし、小島よしお、杉ちゃん、キンタロー。

「見ない日はない」くらい露出していたあの方々は今どうしているのでしょう。お笑い芸人と役者では事情が違うのかもしれませんが。

 異端に見えて、吉田鋼太郎さんは芝居の王道・シェイクスピアやギリシア悲劇などで叩き上げ、蜷川幸雄演出の常連。しかも中年になってスポットライトを浴びたお方。ちょっとやそっとじゃ消費されないタフネスと信じたい。

 そして、11面観音のようにいろいろな顔を演じ分ければ飽きられることもないはず。だから、熱いエールを送りたい。いっそ笠智衆のように枯れて枯れて枯れるまで、突っ走ってほしい! 吉田鋼太郎版「東京物語」が見られる、その日まで。

関連記事

トピックス

夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン