1960年代にほぼ全世帯にテレビが普及したことで共通語が全国に広まり、直すべきものとされていた方言の価値が1980年代以降は逆に高まった。今では面白みを表現するために出身でもないのに関西弁を使い、男らしさを表現するために縁もゆかりもない土佐や広島、九州方言に聞こえる口調を真似る言葉遣いを多くの人が体験している。
最近では方言は、さらに『カワイイ』ものへと転化した。女性誌『CanCam』2014年1月号では「“方言女子”が最強じゃけえ!」と広島弁を使ったタイトルがついた特集が組まれた。
「女子らしいモテ方言といえば京都弁が定番でしたが、同誌の特集タイトルでは、ヤンキーっぽい・恐いといったイメージの強い広島弁が方言モテ企画見出しに採用されていて驚きました。この背景には、方言であるだけでカワイイという価値観や、従来の方言イメージとのギャップを楽しむギャップ萌えというような感性が広く一般に共有されるようになってきたことがあると思います。
山梨方言は、バラエティ番組などでブサイク方言などとしておもしろおかしく取り上げられたこともありますが、とくに先入観のない子どもたちにとってみれば、そのような評価はほとんど関係ないわけです。多くの子どもにとっては、実際のところ、コマさんのしゃべる方言がどこのものであるのか、よくわからないはずです。
単に、かわいらしい外見のお気に入りキャラがしゃべるちょっとかわったことばとして「~ズラ」を口にして楽しんでいるのだと思います。大好きなキャラの方言を口真似をすることで、そのキャラクターになりきる、つまり言葉のコスプレをして『妖怪ウオッチ』の世界に浸りながら、仲良し同士の親密な空間を作り出している、そんな心持ちだと思います」(前出・田中さん)
物語の中でキャラクターを印象づける使われ方がされるうち、方言はその言葉と結びついたイメージを伝えるツールになった。コマさんが話す「ズラ」も、都会に出てきたけれどシティボーイになれない純粋なかわいらしさを表現するツールのひとつとして使用されている。そのため実際の方言とは異なるバーチャル方言となっており、「ズラ」を方言として使用している人たちには違和感を覚える使われ方をしている。
では、「ズラ」は実際にはどのように使用されているのか。NHK連続テレビ小説『花子とアン』と連動して「甲州弁No.1決定戦!~あなたの好きな甲州弁は?~」の投票を受け付けている甲府市役所シティプロモーション課に聞いたところ「何にでもズラズラつけているわけではないですよ」という。
「文末につける『ズラ』には確認の意味があって、『ほうずら』(そうだよね)、『ほういうこんずら?』(そういうことでしょう?)というように使っています。若い人はあまり使いませんが、今でも十分に通じる言葉です。静岡では『ズラ』からズが落ちて『ラ』だけになりつつあるといいますが、甲州弁としては『ズラ』のままです。市民のなかでは地元の言葉ということで親しみをもって、よいイメージを抱いている人が多いですよ」
まだ全国に知られていない方言は幾百とある。あなたが知るマイナーな方言も、何かの物語やキャラクターに採用され、カワイイ方言として全国の人が口にする日がくるかもしれない。