国内

奇跡の一本松 サイボーグ化して巨大建設プラントの陰に佇む

 3.11東日本大震災の被災地、宮城・石巻市は、コラムニストの木村和久さんが高校卒業までを過ごした地。木村さんが、縁ある人々の安否を自身の足で訪ねながら、震災直後から現在の状況までをレポートします。今回は陸前高田市の奇跡の一本松について。

 * * *
 東日本大震災で、三陸の鉄道網は壊滅的な被害を受けました。故郷の石巻線や仙石線はいまだ全線復旧とはなっていません。ですが、ひと足お先に、『あまちゃん』(NHK)で有名になった、三陸鉄道(通称、三鉄)が全線運転再開となり、まことに喜ばしい限りです。

 今回は石巻から、「奇跡の一本松」の陸前高田市を抜けて北上し、三陸鉄道南リアス線に乗り釜石まで行きます。そこでは宮沢賢治をイメージして作られた、SL銀河が運行しており、それを見られたらなというプチ旅行です。

 そもそも三陸の鉄道計画は、石巻市の前谷地駅を基点に、海沿いを気仙沼、釜石、宮古と通過し八戸へと繋がる、夢の鉄道網だったのです。実際はJRの民営化などで、赤字路線は建設しないことになり、計画が何度も頓挫し、最終的には第三セクターでの運営もありでようやく開通にこぎつけました。しかし細々と営業していた矢先、津波で線路は流され、いまだ半分以上の区間が開通していないのです。

 石巻の前谷地からディーゼルカーに乗ると現在の終点は柳津駅で、そこまでの距離は約17km。そこから三陸鉄道南リアス線の起点、大船渡の盛駅までの約110kmは鉄道が不通で、代わりにBRT(バス高速輸送システム)というバスが走ってます。

 ですから三陸鉄道開通は喜ばしいのですが、三陸全体での全線開通には程遠いのです。

 そんな状況を踏まえて、まずは陸前高田市に行ってみました。ここは奇跡の一本松で有名になった場所で、以前は高田松原というきれいな松林と、遠浅の砂浜が風光明媚でした。ですが現在は、サイボーグ状態になった松が一本というありさまです。予想はしていたのですが、あまりのすさまじい光景にただ呆然とせざるを得ませんでした。

 陸前高田市は、現在復興が急ピッチで進んでいるのは確かですが、その進め方がすごい。街の裏山から土砂を採取し、それを巨大なベルトコンベヤーで市内に運ぶプロジェクトを実施しています。ですから街には巨大なコンベヤープラントが縦横無尽に走り、大きな工場のようで、もうわけがわかりません。

 肝心の奇跡の一本松はどこにあるのかというと、しっかりBRTのバス停にも名前が刻まれ、観光名所化していました。表示はあるが松はなし。ぐるりと周囲を見回すと、その巨大プラントのはるか奥に松がポツンと立っていました。結構バス停から歩かされました。皆さんもニュースで知っているように、奇跡の一本松は、1億5000万円をかけて腐らないようにと永久保存されました。つまり樹木に特殊なコーティングをしてサイボーグ化したのです。

 ですからよく見ると樹木がテカテカしており、まあこれも仕方ないのかなと。

 奇跡の一本松は、何もない空をバックに見ると、なんかとても、もの悲しい姿に見えます。むしろ工事中のクレーンや崩壊した建物をあえて視野に入れるほうが、現実的なのではないでしょうか。

 枯れた木に巨額のお金を使ってという意見も確かにあります。けれど今の陸前高田には、見るものはこれしかないのです。巨大建設プラントの陰に隠れてひっそりと佇む一本の松。そのけなげな姿にむしろ感動すら覚えます。ぜひ皆さんも行って、応援してやってください。

※女性セブン2014年6月12日号

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン