ライフ

【著者に訊け】悠木シュン 小説推理新人賞作品『スマドロ』

【著者に訊け】悠木シュン(ゆうき・しゅん)/『スマドロ』/双葉社/1200円+税

 映画『カリオストロの城』さながらに、〈あなたの心〉までまんまと盗んでしまうと巷で評判の通称〈スマート泥棒〉、略してスマドロ。悠木シュン氏のデビュー作『スマドロ』は、第35回小説推理新人賞を受賞した第1章「スマートクロニクル」を、5人の女たちの独白による長編ミステリーに発展させた意欲作だ。

 とある住宅街の昼下がり、〈飲酒運転でひき逃げですか?〉〈あらあらあら〉〈それは大変〉と、あまり大変でもなさそうに33歳の主婦〈私〉が振り込め詐欺らしき電話を受けるシーンから物語は始まる。

 連日ワイドショーを賑わせる怪盗の噂や、姑に通帳も印鑑も管理されているという彼女の結婚生活、若き日の恋バナまで、延々続く主婦の無駄話が、実は驚くべき結末への伏線だったと気づくのはだいぶ先のこと。悠木氏も言う。〈話を聞いていただいている間に着々と事は進んでいたのです〉と。

〈饒舌体の扱いが極めてうまい〉と選評にもあるが、彼女たちは本当にあること、ないこと、よく喋る。そうした1人語りの特性を逆手に取り、夥(おびただ)しい数の固有名詞や時事ネタ、時にHな話やおバカな話も盛り込んで、この嘘とも真ともつかない怪盗譚を面白おかしく読ませる手腕に、思わず唸った。

「スマート○○って、最近多いですよね。ただスマホにしても使いにくい面も多いし、全然スマートじゃないものをなぜスマートと呼びたがるのかなって。試しに泥棒に付けたら語呂もいいし、案外みんな騙されちゃいそうな気がしたんです。

 例えば第1章の女は夫とうまくいっていない自分の人生を肯定したくて、あの時はこうだったと、記憶を上書きしたスマートな自分史を語っている気もする。人は一度話し出すと加速度がついて思ってもいないことを喋ったりするし、そういう心の隙間に付けこむのが振り込め詐欺や犯罪者、または聞き上手なモテ男なのかもしれません(笑い)」

 毎日午後2時に家をチェックにやってくる姑〈春恵さん〉を待つ間、私は自分が子供の頃からいかにモテ、なぜ今の夫と結婚したかを、見ず知らずの電話の相手に滔々と語り、ある悩みを打ち明けた。8年前、双子の娘を出産した彼女に、春恵さんは長男夫婦の代理母になることを要求したのだ。

 あろうことか夫はこれを承諾し、体外受精の屈辱に苛立つ義兄は彼女に直接関係を迫った。そうした身の上話の端々に混じるのが、例のスマドロの噂である。

 白昼堂々住宅街に出没し、〈蝶の標本とか、キン消し百個とか〉、金品以外も華麗に盗むという犯人に関しては単独犯から集団説、いや大層な美形だとの説もある。そして〈子供たちを学校に送り出したあと、コーヒー片手に『MOCO’Sキッチン』またぎの『スッキリ!!』を見るのが朝の楽しみ〉という彼女の元に、やがて彼らが姿を現わすのである。

関連記事

トピックス

奥田瑛二
映画『かくしごと』で認知症の老人を演じた奥田瑛二、俳優としての覚悟を語る「羞恥心、プライドはゼロ。ただ自尊心だけは持っている」
女性セブン
『EXPO 2025 大阪・関西万博』のプロデューサーも務める小橋賢児さん
《人気絶頂で姿を消した俳優・小橋賢児の現在》「すべてが嘘のように感じて」“新聞配達”“彼女からの三行半”引きこもり生活でわかったこと
NEWSポストセブン
NEWS7から姿を消した川崎アナ
《局内結婚報道も》NHK“エース候補”女子アナが「ニュース7」から姿を消した真相「社内トラブルで心が折れた」夫婦揃って“番組降板”の理由
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【厳戒態勢】「組長がついた餅を我先に口に」「樽酒は愛知の有名蔵元」六代目山口組機関紙でわかった「ハイブランド餅つき」の全容
NEWSポストセブン
真美子夫人とデコピンが観戦するためか
大谷翔平、巨額契約に盛り込まれた「ドジャースタジアムのスイートルーム1室確保」の条件、真美子夫人とデコピンが観戦するためか
女性セブン
日本テレビ(時事通信フォト)
TBS=グルメ フジ=笑い テレ朝=知的…土日戦略で王者・日テレは何を選んだのか
NEWSポストセブン
今シーズンから4人体制に
《ロコ・ソラーレの功労者メンバーが電撃脱退》五輪メダル獲得に貢献のカーリング娘がチームを去った背景
NEWSポストセブン
「滝沢歌舞伎」でも9人での海外公演は叶わなかった
Snow Man、弾丸日程で“バルセロナ極秘集結”舞台裏 9人の強い直談判に応えてスケジュール調整、「新しい自分たちを見せたい」という決意
女性セブン
亡くなったシャニさん(本人のSNSより)
《黒ずんだネックレスが…》ハマスに連れ去られた22歳女性、両親のもとに戻ってきた「遺品」が発する“無言のメッセージ”
NEWSポストセブン
主犯の十枝内容疑者(左)共犯の市ノ渡容疑者(SNSより)
【青森密閉殺人】「いつも泣いている」被害者呼び出し役の女性共犯者は昼夜問わず子供4人のために働くシングルマザー「主犯と愛人関係ではありません」友人が明かす涙と後悔の日々
NEWSポストセブン
不倫疑惑に巻き込まれた星野源(『GQ』HPより)とNHK林田アナ
《星野源と新垣結衣が生声否定》「ネカフェ生活」林田理沙アナが巻き込まれた“不倫疑惑”にNHKが沈黙を続ける理由 炎上翌日に行われた“聞き取り調査”
NEWSポストセブン
ハワイの別荘と合わせて、真美子夫人との愛の巣には約40億円を投資
【12億円新居購入】大谷翔平、“水原一平騒動”で予想外の引っ越し 日系コミュニティーと距離を置き“利便性より静けさ”を重視か
女性セブン