自動車販売台数世界首位に君臨するトヨタだが、中国では各国メーカーの後塵を拝している。北米での攻勢に陰りがみえつつあるなか、中国の攻略は急務だ。反日でデモや技術流出など「チャイナリスク」にどう立ち向かうか。世界一の2200万台市場への戦いの舞台裏に経済ジャーナリスト・永井隆氏が迫った。
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その日、会場には熱気がこもっていた。
「私の名前は保守(パオショウ)と申します。名前は保守ではありますが、私の描く中国戦略は決して保守的ではなく、革新的なものだと自負しております」
2014年4月20日、北京モーターショーのプレスカンファレンス。伊原保守・トヨタ自動車副社長は、詰めかけた中国メディアを前に熱く語った。中国語を交えたジョークに会場から歓声が起こるなか、強い眼差しでこう言い切った。
「将来的には日系メーカーNO.1、ブランド別シェア3位となることを目指し、努力していきたいと考えております」
「年間販売200万台規模の事業へと成長を遂げることが、私の描く中国事業の将来像です」
その決意は言葉だけではなく、販売戦略からも読み取れる。トヨタは同モーターショーで、新型カローラとレビンを中国で初公開した。カローラは日本でもおなじみの定番コンパクトカー、レビンは1980年代に日本で一世を風靡したものの、生産が終了していた若者向けの人気車だ。さらに、中国産ハイブリッドユニットを搭載した両車の2015年発売も明言している。
後述するがトヨタが誇る“虎の子”技術・ハイブリッドユニットを「現地生産」で販売する意味は大きい。知的財産の管理が行き届いていない中国において技術流出の恐れはぬぐえないからだ。しかし、なりふり構ってはいられない。「技術流出は織り込み済み」という言葉さえ、社内外から聞こえてくる。
「一緒にやることで土に水が染みわたっていくように技術が浸透していき、この地のモノづくりの底上げに繋がればトヨタにとっては嬉しいこと」(中国駐在のトヨタ関係者)