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【著者に訊け】近藤史恵氏 歌舞伎界ミステリー『胡蝶殺し』

【著者に訊け】近藤史恵氏/『胡蝶殺し』/小学館/1400円+税

『胡蝶殺し』、と言っても、殺人事件は一つも起きない。ではいったい何が殺し・殺されるのか──。あえて言うなら〈運命〉、である。胡蝶とは、歌舞伎『春興鏡獅子』の重要な役の一つ。魔物に憑かれた小姓弥生が可憐な娘姿から獰猛な獅子に変身する間、舞台に愛らしく舞う一対の蝶の精だ。

 自身37歳で、中堅に満たない蘇芳屋(すほうや)の〈市川萩太郎〉は、いつか自分が弥生を、そして胡蝶役を6歳の息子〈俊介〉と、49歳で急逝した人気女形〈中村竜胆〉の遺児〈秋司〉が、共に舞う日を夢見ていた。興行会社の社長から俊介と同学年の秋司の後見役を頼まれた時、彼は思った。〈秋司の才能が俊介を遙かに上回っていたときに、自分はそれを受け入れられるだろうか〉……。

 舞台は〈御曹司〉という言葉が今なお残る、梨園。2人の子役と父親の運命が交錯する時、そこに生じるのは悲劇か、それとも?

 2008年『サクリファイス』を始めとする自転車レース小説、時代小説や警察小説まで、無尽蔵な抽斗(ひきだし)をもつ異能の人・近藤史恵氏は、実は大変な趣味人でもある。特に歌舞伎は大学時代の専攻。今も地元大阪や京都、東京へも、毎月足を運ぶ。

「いえいえ。本当に熱心な方は月に何回も同じ演目を観に行かれるので、私なんてただの趣味です」

 それこそ“常識の内と外”ですねと言うと、これまである世界の常識や固定観念が瓦解する瞬間を数々の作品に描いてきた彼女は笑う。

「かもしれません。自転車業界なら自転車業界の常識が、1歩外に出ると完全な非常識だったりする現象に、元々興味があるんですね。今回の着想も、バレエや音楽界では人材を1人でも多く集めて才能を確保しようとするのに、歌舞伎界では今も一子相伝で芸が継承され、なぜ人気も質も絶えないのかに興味があった。

 玉三郎さんや愛之助さんのように芸養子をとる場合もあるとはいえ、贔屓筋から男の子を望まれる妻の重圧は想像を絶するし、その子に才能がない場合はどうするのか。そもそも才能とは何かも含めて、性格も境遇も全く違う2人の御曹司を軸に書いてみました」

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