──女性が説得役を務めることからすると、「女性に対する人権侵害」と単純に解釈できるわけではないこともわかります。
仲正:説得役を務める女性たちもかつて「誘拐結婚」で結婚したのかもしれません。拒絶から受け入れへという心理過程を経験した女性が説得するからこそ説得力があるのだと思います。誘拐された女性の、なんと8割が説得を受け入れ、女性が最終的に結婚に合意しなければ、実家に帰さなければならないという「暗黙のルール」がある、と著者は書いていますね。
出発点は暴力的なものであっても、最終的には合意に持って行かなければならないと、男性たちが考えていることがわかります。意外に抑制的で、モラルが働いているんです。今の日本で男性が女性を誘拐したら、かなりの凶悪犯罪に発展するのが普通だと思いますが、彼らは逆にだんだん暴力的ではなくなっていくんですね。そこが面白いところですし、暴力を暴力ではない形にソフトランディングさせる知恵やしたたかさを持っているとも言えます。
日本の戦国時代には、秀吉と茶々の関係がそうであるように、滅ぼした家の娘を側室にしたりした。当時の日本にも、暴力の関係を平和的な関係に持ち込む知恵やしたたかさがあったんです。日本人がそれを急速になくしていくのは、明治以降でしょう。暴力を行使する権利を公権力に完全に預けたことにより、逆に万が一暴力を行使してしまったとき、それをソフトランディングさせる技法をなくしてしまったんでしょうね。
インタビュー・文■鈴木洋史
※SAPIO2014年9月号