芸能

「家族狩り」で難役こなした松雪泰子の力量に女性作家が脱帽

 夏のドラマもそろそろクライマックス。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が総括した。

 * * *
 猛暑の中を走ってきた「夏ドラマ」。いよいよ秋になり、大団円を迎えつつあります。「刑事モノ」「医療モノ」ドラマはぐんと減り、「不倫モノ」が注目された今クールを振り返ってみると……ドラマに、ある「ものさし」をあててみる。すると面白いように、くっきりと傾向性が二つに分かれてしまう。そのものさしとは、「家族」です。

「家族」を、作り直す方向に描くのか、それとも崩壊していく方向に描くのか。それによってドラマの違いがはっきりと色分けできるのです。前者のドラマの代表が、TBSの『おやじの背中』(日曜21:00)。「父と子」をテーマにした1話完結型のドラマ、全10回。山田太一に鎌田敏夫、倉本聰……そうそうたる脚本家たちの名前が並ぶ。俳優やストーリーは毎回変わっていっても、父の思い出や存在感を描き「家庭」の価値を父を通して最評価する、という意味では一貫している。

 もう一つ、フジテレビの『若者たち2014』(水曜22:00)も、家族の可能性やその価値を描き出そうという意欲に満ちています。『おやじの背中』と『若者たち2014』。ともに、「家族」の愛や絆を再評価するドラマ。それだけではありません。局をあげての制作・番宣、数々のスポット広告。つまり、局自体が力を入れまくった企画である点も共通しています。演出家や脚本家などキーマンの年齢層が高い、という点でも似通っています。もしかしたら、「失われた時を求めて」ということでしょうか。

 さて、それとは正反対に「家族」の崩壊を描く方向のドラマ--。中でも話題を集めているのが『昼顔~平日午後3時の恋人たち』(フジテレビ系木曜22:00 )。

 夫とは別の男に恋する主婦・平日昼顔妻を上戸彩が演じる。相手役の教師は、今一番色っぽいと人気を集める斎藤工。さらに、専業主婦・利佳子(吉瀬美智子)と画家・加藤(北村一輝)という異色カップルが存在感を放つ。荒々しく動物的に求め合う二人。当然ながら、それぞれの「家庭」は不倫によって崩壊していきます。

 もう一本の不倫ものが『同窓生~人は、三度、恋をする』(TBS系木曜21:00)。40歳を迎えた男女が中学の同窓会で再会し、恋が再燃する。ちょっとベタな設定のレトロ調トレンディー風ドラマ。恋愛に燃えて走っていく男女それぞれの家庭は、やはり崩壊中。

 ということで、同じ時代に、テレビという同じ表現媒体で流れるドラマなのに、「家族」をめぐってこうも正反対のベクトルで作られること自体が面白い。家族「肯定」型のドラマは、視聴者層としてアクティブシニアを狙ったか? 子どもも巣立ち、夫婦間の葛藤も終わりを迎えている世代は、今こそ平和的な家族の思い出に浸りたい気分かも。

 一方の家庭「崩壊」型ドラマのターゲット層は、やはりアラフォー世代? まだまだ子育ての最中、夫婦は葛藤と緊張のただ中にある世代。そんな30~40代女性に不倫ドラマが人気。夫のいない間を見計って録画したドラマをこっそり見ては、ハラハラドキドキ。ストレスを解消して癒される主婦も多いとか。いずれにせよ、「家族」を軸にドラマの傾向性・対比がはっきりと浮かび上がってくることが、今期のドラマの特色ではないでしょうか。

 最後にもう一つ。「家族」の「崩壊と再生」を描き異彩を放ったドラマがあります。TBS『家族狩り』(金曜22:00)。ネット上でも高い評価が目立ちます。が、個人的にはグロい描写が多すぎてその世界観になかなかのめりこめなかった。

 家族や親子の不信を通して時代の病巣をえぐり出そう、という意欲は買う。けれど、あそこまで血が流れたり暴力的で極端な出来事を、直接見せつける形でしか家族のドラマを描けなかったのだろうか、そんな疑問も残りました。

 ただし、大きな収穫もあった。主役を演じた松雪泰子の力量には脱帽。認知症の父と介護に疲れた母を抱える児童心理司という、リアル感満載の難しい役。その女性が一家心中事件と向き合っていくストーリー。松雪さんにしかできない、重たい役柄。その演技に、説得力をビンビン感じました。この役者の力は、さらに炸裂しそう。今後の活躍を期待したい。「家族の激しい崩壊ぶり」とともに、希望も見えた。松雪泰子は今期ドラマの大いなる収穫でしょう。

関連記事

トピックス

大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
「What's up? Coachella!」約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了(写真/GettyImages)
Number_iが世界最大級の野外フェス「コーチェラ」で海外初公演を実現 約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン