国際情報

中国共産党高級幹部だけに安全食品を供給する「特供」の実態

 北京中心部からメインストリートの長安街を西に進み、五環路(第5環状線)を北上すると、ゴルフ場や公園、遊園地のほか、北京外国語大学などいくつかの大学のキャンパスや小中学校などの教育施設が目につく。車でわずか1時間足らずだが、一帯は北京市内の喧噪とは無縁な、のどかな田園地帯が広がる。緑が多いせいか、PM2.5も気にならない。この一角に、目指す施設があった。巨山農場、巨山養鶏場など北京の食糧生産拠点だ。

 しかし、ただの農場ではない。ごく一部の高級幹部に安全な食品を提供する「特供(特別供給基地)」と呼ばれる特殊部門なのである。

 巨山農場や巨山養鶏場など特供の施設は2mほどのセメントで塗り固められた屋根付きの壁に囲まれ、それが縦と横に数百メートルも続いている。外側からだと単なる工場としかみえない。

 しかし、農場の内部をよく知る地元の住民によると、建築面積はほぼ1平方kmで、ほぼ1km四方の正方形にすっぽりと収まり、東京ドーム77個分とかなりの広さだ。ここで、米やキュウリやトマト、白菜、キャベツなどの野菜類やリンゴ、スイカなどのフルーツ、さらにニワトリや鴨などの家禽類、牛や豚のほか、鯉などの魚類も養殖されている。

「ここでは、ありとあらゆる食料が生産されているが、すべて自然環境での生育、飼育が絶対条件。遺伝子組み換えはもちろんダメ。原則的に農薬なしの有機農法が基本だ」と地元住民は語る。

 それでは、なぜ特供が設けられたのか。毛沢東らが建国のモデルとしていた旧ソ連が指導者たちのための特供システムを採用していたからだ。

 建国から1年後、2人のソ連軍幹部が北京を訪れた。ソ連共産党最高指導部の身辺警護を主な任務とする警衛部隊の幹部で、彼らは指導部の食事も担当していた。「新鮮で安全な食材を使って指導者に料理を提供するのが主要な役目だが、毒殺を防ぐという重要な目的もある」と北京の中国人ジャーナリストは語る。

 2人のソ連軍幹部のアドバイスから「中国版特供」が誕生。ソ連の例から、特供は中国指導部の身辺警護を担当する「党中央弁公庁警衛局中央警衛団」が直接管轄した。

 その後、軍に近い国営企業の三元集団が北京市内で特供を増設、管理したが、同集団と北京華都集団、北京市大発畜産集団が2009年4月、合併。食糧生産企業としては中国で最大規模の北京首都農業集団(首農)が誕生。首農は従業員数4万人、資産総額191億6000万元(約3140億円)で、巨山農場を筆頭に、13か所の生産拠点をもつほか、中国全土に支店網を張り巡らしている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン