ライフ

【書評】中国で病気に効能と信じられるゴキブリの解説書

【書評】『ゴキブリ大全』David George Gordon(デヴィッド・ジョージ・ゴードン)著 松浦俊輔訳/青土社/本体2400円+税

David George Gordon(デヴィッド・ジョージ・ゴードン):アメリカの生物学者。虫の調理法や北アメリカの自然についてのガイドを多数執筆。動物園、水族館のアドバイザーとしても活躍している。日本語訳された著書に『タランチュラのからだ』(講談社刊)。

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 本書は〈地球上で最も嫌われ〉〈最も理解されていない生物〉であるゴキブリについての完全なるガイドで、生物学的な知見から社会的存在としての逸話に至るまで、あらゆる事実が記されている。

 たとえば、ゴキブリは意外に知能が高く、わずか5、6回の試行で、いくつもの曲がり角や行き止まりのある迷路を抜け出すことができるようになる。見た目の気持ち悪さとは裏腹に“綺麗好き”で、猫が身づくろいするように、休憩中は絶えず脚や触覚を舐めている。 これまでに発見された最大のゴキブリは山形県在住の日本人がコレクションしているもので、体長97ミリメートル。想像したくないが、小さなネズミ並みである。

 病原体を運ぶことも確かだが、薬として使われることもある。古代ギリシャでは、ゴキブリの内臓と薔薇の油を混ぜて耳の穴に流し込むと病気が治癒すると信じられ、古代中国では、乾燥させたゴキブリが内臓疾患や整腸に効用があるとされた。粉末にした乾燥ゴキブリは、今でもさまざまな病気に効能があるとして、中国人社会などで流通している……。

 このほか、交尾の体位なども詳細に記されている。全編にリアルなイラストが添えられているので、つい顔をしかめてしまうが、面白いエピソードの連続で、読む者を飽きさせない。

 あとがきで訳者も指摘しているように、人間が「清潔」や「快適」を求めてきたがゆえに、都会からゴキブリの姿はかなり消えた。だが、4億年も前からこの地球上に存在するゴキブリは、食物連鎖の中で重要な役割を果たしている。多くの動物の食糧源であり、花粉媒介者でもあるのだ。“嫌われ者”の絶滅は人間にとっても不幸であることがわかる。

※SAPIO2014年11月号

関連記事

トピックス

問題は小川晶・市長に政治家としての資質が問われていること(時事通信フォト)
「ズバリ、彼女の魅力は顔だよ」前橋市・小川晶市長、“ラブホ通い”発覚後も熱烈支援者からは擁護の声、支援団体幹部「彼女を信じているよ」
週刊ポスト
米倉涼子を追い詰めたのはだれか(時事通信フォト)
《米倉涼子マトリガサ入れ報道の深層》ダンサー恋人だけではない「モラハラ疑惑」「覚醒剤で逮捕」「隠し子」…男性のトラブルに巻き込まれるパターンが多いその人生
週刊ポスト
新聞・テレビにとってなぜ「高市政権ができない」ほうが有り難いのか(時事通信フォト)
《自民党総裁選の予測も大外れ》解散風を煽り「自民苦戦」を書き立てる新聞・テレビから透けて見える“高市政権では政権中枢に食い込めない”メディアの事情
週刊ポスト
ソフトバンクの佐藤直樹(時事通信フォト)
【独自】ソフトバンクドラ1佐藤直樹が婚約者への顔面殴打で警察沙汰 女性は「殺されるかと思った」リーグ優勝に貢献した“鷹のスピードスター”が男女トラブル 双方被害届の泥沼
NEWSポストセブン
女性初の自民党総裁に就いた高市早苗氏(時事通信フォト)
《高市早苗氏、自民党総裁選での逆転劇》麻生氏の心変わりの理由は“党員票”と舛添要一氏が指摘「党員の意見を最優先することがもっとも無難で納得できる理由になる」 
女性セブン
出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
NEWSポストセブン