「僕は昆虫と話をするような子供でね。動物や植物の声なき声を代弁して、人の心に届く言葉にするのが、自分の役割だと思っている。
かくいう僕も以前はダリみたいなシュールアートを描き、海外の文化に憧れる西洋かぶれな人間でした。それがある時、一緒に仕事をした香港人から『あんなに美しい場所があるのに』と北海道や白神山地の話を聞き、以来、日本の自然の虜になった。
白神山地なんて狭い日本にありながら、ブナの原生林では世界一の面積を誇り、世界中回ってもそんな場所は滅多にない。そうか、自分は奇蹟の国に生まれたんだと、ようやく気づいたのが40過ぎです」
旅の途中、熊撃ちの名人に会い、岩魚釣りに興じた詩人の心は、やがて獲られる側の熊や岩魚に同化してゆき、獲る側の自慢話に耳を閉ざすように人里を去る。向かったのは山だ。それも体力の限界ギリギリの激しい山行を自らに課し、山や自然と一対一で対峙する。
「父親を早く亡くした僕は、絶えず父性的存在を求めて旅をしている感じがあるし、平家の落人伝説が残る山村育ちの僕にとって、世界は山に登らないと見えないものでした。山頂からは土佐湾が見えて、そこにキラキラ光るのが海。子供の頃は船の絵ばかり描いてました。
やがて各地を旅しながら、人工杉が覆う前の、照葉樹が茂り、清流の湧く原風景を追い求めた僕は、漁業と農業が手を携え、海のために森を再建する北海道常呂町の人たちが〈森は“海の恋人”、“川は仲人”〉と言う感性や、〈川の外科医〉こと福留脩文さんの取り組みを素晴らしいと思うようになる。しかも森や川を守り、水を守ると、うまい酒までついてくる!!(笑い)」