――総額でどのくらいの負債になりそうですか?
井上:まだすべてが把握できていないんです。改めて会計士さんに確かめてもらっている途中なのですが、印刷所や、中国で身近に接している人への1000万円以上もの未払いもありました。ベストセラー作家の会社なんだから払わないはずがないと黙っていたようなんです。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
――まとまった未払い以外の負債の状況は?
井上:大きな支払いを分散させるために会社でローンを組んでいますが、ほとんどが1体数百万するフィギュアの金型代金です。総額2000万円ほどを毎月50万円ぐらいずつ返済することになっていて、今でも約700万円残っています。普通なら、金型まで彫ったら製品を作ったと思うでしょう? でも、製品になっていないものがいくつもあった。そして、これら何年も前に企画だけで流れたと思っていたものが、すべて「仕掛品」になっていました。
――仕掛品として計上されると、どのような影響があるのでしょうか?
井上:すべて「資産」になるんです。製品化しなければ利益を生み出さないのに、それだけで約6000万円も存在していた。そのぶん税金が積みあがります。
――この負債化している資産にはどんなものが?
井上:人気キャラクターだけでもずいぶんありますよ。ロングセラーになっている人気ゲームの美少女キャラとか、有名ブラウザゲームの人気キャラとか。あんなに人気があるのに、どうしてちゃんとしたフィギュアが出ないのかと不思議に思っているファンもいたと思うのですが、それは、うちが版権をおさえているからなんですね(苦笑)。
――社会現象を起こすほどの人気を考えたら、今すぐにでも発売しないと。
井上:出せないんですよ。フィギュアが売れるのはわかっています。でも、私からみて原型のクオリティが納得いかない。日本人の原型師にゼロから作り直させるしかない。でも、腕が良い原型師はみんな忙しいんですよ。ブログで原型師募集しようかと思うくらいです。やりたいと手を上げるファンの原型師がいるんじゃないかな。
――『中国嫁日記』の印税が会社の税金や負債に消えたら、生活はできるのでしょうか?
井上:1月半ばまでは厳しかったですね。Googleとの契約上、具体的な額は言えませんがブログ『中国嫁日記』の広告料でしのいでいました。しばらくは広告料で生活していきます。印税やフィギュアの収入は、会社の税金と負債を払うために消えるので。
80万部も売っている作者は、少なくとも何千万かは持っているだろうと誰でも思うのに、まさかすかんぴんで無一文だったとは(笑)。しかも税金の未納がたくさんあるから実質マイナスです。1万円単位の金で困る生活を送ることになるとは誰も思わないですよね(笑)。
■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』4巻(KADOKAWA エンターブレイン)。