「今のテレビドラマですと、二人で芝居していても、こっちに聞こえてこないような小さな声で芝居する俳優が増えてきています。若者じゃなくて、大人でもね。ある時、若い女優さんとの場面で、何回やっても全く聞こえてこないことがありました。それで監督に『僕と彼女の二人の間でコミュニケーションとれなきゃ、俺はセリフ言えないよ』と言ったことがあります。
今は胸元にピンマイクを付けるから、小さな声でも拾えちゃうんですよね。それで、小さな声でやっていると、モノローグを喋っているみたいになって、なんとなく真実味があるような錯覚を起こすんですよ。それっぽい芝居に見える。で、それに酔っちゃうわけですよ。でも、それは実は相手に伝わっていなかったりする。相手にちゃんと聞こえなきゃ、セリフは成り立ちません。
以前、中井貴一君と一緒にやった時にその話をしたら、彼も『僕もそう思うから、せめて部屋の中での撮影だけでもピンマイクをやめてくれと頼んだことがあります』と言っていました。
僕らが録っているセリフというのは、『日常的なセリフ』なんですけど、『日常そのもの』ではないわけです。フィクションの中のリアリティが必要です」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。主な著書に『天才 勝新太郎』、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載に大幅加筆した単行本『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年4月3日号