「『鬼平』では力を入れないようにしています。吉右衛門さんの横にいて当たり前みたいな、そういう雰囲気を出したいと思っています。画のバランスを考えると、無理に前に出ることはない。自然に収まっていれば、視聴者にとってはそれでいい。

 ただ、立ち回りにはこだわっています。酒井は斬り込み隊長で、そこが楽しみなんですよ。若い時より、今の方が立ち回りはできていると思います。若い頃は刀を持つ時に力が入る。でも、今は入れないでやれているから、技で行けています。

 でも、腰はしっかりしていないとダメです。立ち回りでは足腰がブレては絶対にダメ。斬る時は足の動きが大事なんですよ。足が動かないと手斬りになってしまう。そうすると本身の場合は振り下ろした刀の勢いが止まらなくなって、自分の足を斬ってしまうこともありますから。

 日本刀が好きでしたので、若い頃から林邦史朗先生という大河ドラマをやられている殺陣師の方に本身の斬り方を教わっています。初段なんですよ。

 撮影では竹光を使いますが、その時でも本身の重さを意識します。竹光は軽いけど、本身は重い。ですから、歩く時も抜く時も、まず刀の重みを出しながらやることを考えますね。本身の重さだと実際にはそんなに振ることはできません。そこは感覚で全てフォローしています。

 ですから、日頃からジッとしていません。今でも家に木刀を置いて毎日振っています。いつ剣の仕事が来てもいいように」

■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2015年5月8・15日号

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