また、毛沢東、トウ小平から習近平までの中国歴代最高指導者はみな天皇を大事にしている。本来ならば、労働者を結束させて革命を起こした共産党が、世襲の君主制に対し批判的な立場をとるはずだが、天皇に限って、中国共産党の指導者たちはそのそぶりを全く見せなかった。長い伝統をもつ日本の皇室に対する中国の指導者の憧れやコンプレックスといった複雑な感情が背景にあるかもしれない。
中国側の外交記録などによれば、中国建国の父、毛沢東が1950年代から1970年代にかけて、訪中した多くの日本人と会談したが、別れ際に「天皇陛下によろしくお伝え下さい」とよく口にしていた。
1956年に訪中した遠藤三郎元陸軍中将との会談で「私たちは日本の天皇制を尊重している」と言明した。また、1972年に日中国交回復の交渉のために訪中した田中角栄首相と会談した際も、毛から天皇の話題を切り出し、「唐の時代の高宗皇帝も『天皇』の称号を用いた」などと語り、天皇への関心の高さを示した。
清朝最後の皇帝は辛亥革命で退位したが、それまで2000年以上も皇帝が中国に君臨しつづけた。清末生まれで湖南省の農民から新中国の初代主席まで上り詰めた毛沢東がよく自分のことを中国最初の皇帝「始皇帝」に例えていた。毛の心の中に日本の天皇に対する憧れに似た気持ちがあったかもしれない。
※SAPIO2015年6月号