国内

文楽の人間国宝、期待する義太夫は「おりまへんなッ」と断言

 歌舞伎、能、文楽など伝統芸能に見いだされる“日本なるもの”をノンフィクション作家・上原善広氏が浮き彫りにする新シリーズ「日本の芸能を旅する」。今回紹介する義太夫(文楽)の人間国宝、竹本住大夫氏が文楽の将来を語る。

 * * *
 危機的状況にある文楽だが、世代交代と共に、若手も着々と成長している。若手一番人気は、40歳の豊竹咲甫大夫だ。NHKの「にほんごであそぼ」にもレギュラー出演している。

 実は咲甫大夫の祖父は、文楽の三味線弾きだった。父は跡を継がなかったが、孫である咲甫大夫は義太夫になり、弟は三味線の鶴澤清馗として活躍している。

「文楽は、まず義太夫の語りで全て動く。そこに惹かれました。お客さんにも、人形だけでなく、義太夫も見てもらえるくらいになりたいと思っています」

 文楽は、歌舞伎のように世襲ではない。現在は後進育成のために設置された国立の養成学校の卒業生が、半数以上を占めるようになった。そんな中、咲甫大夫は「文楽のエリート」と言えるだろう。
 
 咲甫大夫の語りは、その名の通り、パッと花が咲いたように爽やかで明るい。聴いていて惚れ惚れする。
 
 しかし、そんな現在の観客を惹きつける咲甫大夫にも、住大夫は手厳しい。

「あれはもったいない。顔もええ、声もええ。お客さんもそこそこ呼べる。せやけど、下手が上手ぶってやるな、と言うんです。自分の欠点を知らん、天狗になっとる。それに気づいてない」

 咲甫大夫に、その言葉を伝えると、苦笑いした。

「住大夫師匠は、ぼくらにとっては大名人。サムライみたいなものです。まだまだ雲の上をつかむような感覚です」

 では現在、期待する義太夫はいるかと、住大夫に訊ねると、「おりまへんなッ」と断言した。確かにこれは厳しい。しかし、それほど今の義太夫、ひいては文楽に危機感を持っている、ということだろう。
 
 最後に、ふと「そういえば、以前は煙草を吸われていたそうですが」と訊ねると、住大夫は笑った。

「昔、花柳界に贔屓にしてたのがおったんですが、その子から『大夫がタバコなんか吸うたらアカン』と、取り上げられたんで、止めたんですわ。うちの嫁さんからも『あんたは私の言うこと聞かんと、他所の女の言うことは聞く』と、怒られましたわ」

「私は悪声だす」と謙遜する住大夫の色気は、こういうところに秘密があったのだ。

※SAPIO2015年6月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
このほど発表された新型ロマンスカーは前面展望を採用した車両デザイン
小田急が発表した新型は「白いロマンスカー」後継だというけれど…展望車復活は確定だが台車と「走る喫茶室」はどうなる?
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン