なのに、世間は彼らにファンタジックな夢を重ねたがる。奇跡の物語として彼らを消費しようとする。そして、どんなに駄目な人間だって誰よりもすばらしい何かがきっとあるんだよ、みたいな無責任ポエムにつなげてくれる。もともと特別なオンリーワン主義的ポジティブシンキングをおしつけるなよ、と思う。おかげで図抜けた能力を持つでもない大半の障害者の人生が見えなくなっちゃうじゃないか。

 実際はそんなんじゃない。もっと普通に周りから理解され、周りに相談できる環境が欲しいんだ。等身大のぼくらの受け入れから始めてほしいんだ。つまり栗原類はそう訴えたのである。「え~、キャラじゃなくて障害だったの。きつー」とドン引きされかねないリスクを背負い、彼は人間宣言をしたのだ。私にはそう見えた。

 大きな話題になった「あさイチ」放送日の夜、栗原類は「改めて」と題してブログにこういう文章を投稿した。

〈今日のあさイチは多くの人に発達障害について知ってもらう凄くいい機会だったと思います。ご覧頂いた方々の反応も暖かく僕が伝えたかった事をちゃんと伝える事が出来て凄く嬉しかったです。ただ僕は僕であり、今までとこれからが何も違う事はなく僕にとっては一本の道が繋がっていてそこを歩いているだけです〉

〈僕の行動に関して今まで面白いとバラエティで笑ってくれた方々、僕が発達障害者だと知ったから“笑っちゃいけない”とは思わないでください。僕が発達障害者であっても、そうでなくても僕は僕だし、僕の個性が人を笑わせられるほど面白いのであれば、それはコメディ俳優を目指している僕にとっては本望です〉

 彼はコメディ俳優の道を歩きたい青年だったのか。それなら障害のことはグレーにしておくほうが都合良かろうに、あえて告白とは強気だな。では、分かった。観る者が発達障害者だということも忘れるぐらい笑える芝居を楽しみに待とうじゃないか。

 栗原類の挑戦に期待すると共に、これからのマスコミが彼をどう扱うかに注視したい。具体的には、NHKという温室の外、民放のお笑い番組やバラエティ番組といった市場社会で彼がこれまで同様に振る舞えるか、だ。

 一昨年、お笑いコンビの松本ハウスが著した『統合失調症がやってきた』という本づくりに私は編集協力で関わった。本が出て以来、統合失調症のハウス加賀谷とその良き相方の松本キックは、全国の自治体やNPOなどが催すイベントに呼ばれ続けている。舞台にもコツコツ立っている。でも、テレビ出演は、障害者情報バラエティ『バリバラ』(NHK Eテレ)ばかりだ。彼らはとっても面白いのに、フラットにお笑い芸人として起用する民放の番組がなかなか出てこない。

 障害者という線引きを乗り越えるのは、障害者の周りにいる者たちの役割だと私は思っている。栗原類、松本ハウスで視聴率稼ぎを狙う野心家の仕事を早く見たい。面白ければ何でもありの精神で突き進む、この国のお笑いの底力を見せつけてくれ。

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